ファッションをテーマに活動する若者のリアルや、同世代へのメッセージを届ける連載企画「若者VOICE」。第16回目は、ELIOTPSYCHO(エリオットサイコ)デザイナー細部詩音。

「ぱっと見の面白さを狙った」と語る17awのコンセプトは、80年代ニューウェーブとVaporwaveとのクロスオーバー。デザイナー細部詩音のクリエイションは、見るものに鮮烈な印象を残す。その面白さはヴィジュアルのインパクトにとどまらず、インスピレーションへの飽くなき追求の賜物だった。

好きなブランドはJuvenile hall rollcall(ジュヴェナイルホールロールコール)と語る彼は、10代で立ち上げた自身のブランド「エリオットサイコ」の2シーズン目のコレクション発表を終えたばかり。デザインから生産、スタイリングにカメラまでマルチにこなす弱冠20歳のデザイナー細部詩音とは、一体何者なのだろうか?

 

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細部詩音
秋田県から上京、現在一般大学に在学中。10代でELIOTPSYCHO(エリオットサイコ)を立ち上げ、2シーズン目となる18ssコレクションを発表。東京内外で展示受注会を行いながら、取り扱い店舗を増やす。愛する音楽とカルチャーにおける多面的な感性を落とし込んだアイテムは、ミーシャ・ジャネットをはじめ業界内でも注目を集めている。

 

ーファッションに触れるようになったきっかけは?

中学生の頃に60年代のモッズと呼ばれる音楽のカルチャーや、80年代の北欧、イギリスのハードコアパンク、そして90年代のブリットポップに出会い、ひたすら漁って聞いていました。そのうち自然と彼らの私生活やカルチャーにも興味が湧くようになり、地元の秋田で音楽好きの友人とバンドを始めました。イギリスのユースカルチャーを形から真似し始めたことが、ファッションへの興味の始まりです。ブランドは特に詳しくはなかったのですが、似ているものを古着屋から見つけては着ていましたね。
それからしばらくして、雑誌「TUNE」に出会いました。当時は2012年ぐらい。「都心にはこんなに格好いい人たちがいるのか」と衝撃でした。今はもうないブランドも含め、広く知識をつけるきっかけでもありました。

 

ー大学進学とともに上京し、そこから実際に東京でエリオットサイコを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

始めは趣味でグラフィックを作って、自分が着たいものを形にしていました。今は無くなってしまった渋谷の「Peeace」というセレクトショップのオーナーがそれを気に入ってくれて、そこでポップアップショップを開くことに。ショップのお客さんともマッチしたこともあり、予想以上に服が売れ、17awの受注会につながりました。コレクションを発表するにあたって、1から型数を増やして制作にあたりました。その時はデザインから製作まで全て1人で担当しましたが、現在の製作は工場と分業しているものもあります

 

ーデザインから生産まで全てを管理するにあたって、必要になる知識は多いですよね。

僕の場合は、自分でやってみてからやるべきことが明確になりました。あれもこれもやらないと、でも右も左も分からないという感じ。こんなに大変だとは思わなかったから、おそらく先にブランド設立や服作りの流れを学んでいたとしたら、ブランド立ち上げは実現していないと思います…

 

ーインスピレーションは日常から?

普段の生活からも得ていますね。何をしていてもインスピレーションを見つけクリエーションのことを考えてしまうのは、切ないところもありますけど。この時期だとダリなどのシュールレアリストの作品やモネらの印象派の作品から。あとは建築家の重松象平を見てから、視点が変わって建造物を美的な目線から観察するようになりました。旅行が好きなので合わせて写真も撮るようになりました。1番ダイレクトに影響を受けているのは映画や音楽、そこに根付く空気感であるというのは変わりません。生で空気を体感することが1番大事だと感じます。

 

ー趣味が広い。

だからこそアウトプットが追いつかなくて困ることもあります。好きなことに対して、オタクなんでしょうね。徹底的に知りたい。

 

 

 

ーブランドサイトにも記載はないようですが、エリオットサイコにブランドコンセプトはありますか。

よく聞かれるのですが、正直これと決めているコンセプトはないです。シーズンごとの気分で変わっていくものだし、同じことをやってもつまらないから、常に新しいことをやっていきたい気持ちはあります。ブランドでルーツやバックグラウンドが根付いて制作が続いているブランドは、新しいことに挑戦しながらもそのブランドらしさが垣間見える。そうした、やり続けていく中で生まれるエリオットサイコらしさというものを定着させていきたいです。

 

ーエリオットサイコはジャンルでいうとストリートモードというのでしょうか、今のテイストになった理由を教えてください。

始めからテーラードを作ったところでクオリティを含め選んではもらえない。今のようなテイストの方が目を向けてもらいやすいと思います。作り続けて個性を確立できたら、もちろん違うジャンルの服にも挑戦したいです。

 

ーブランドとしての強みは何でしょう。

クリエーターの自分の強みとして、好きな映画や音楽、芸術小説を追求して突き詰めていくことができる。確固たる嗜好があることがクリエイションの上での強みであると感じます。引き出しが多いところを楽しんでもらえたらいいですね。

 

ーエリオットサイコはどのように着られるのを想定していますか。

それぞれのアイテムにイメージソースはありますが、手にした人には自由に解釈してもらえるのが理想です。例えば今回の18ssには”反骨”と文字が入ったTシャツがあって、それはバンドTシャツのようなイメージで作っている。着る人には着倒してヨレヨレになってから味を楽しんでほしい。スタイリングも作り手から離れたところで生まれるストリートな文化を大事にしたいと考えています。

 

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ーなるほど。反骨の文字のセレクトはどうして?

もともと反骨精神という言葉が好きだったんです。何かに対する反骨精神って大事だから、そして単語がかっこいい。

 

ー反骨Tシャツのルックもそうですが、写真の空気感からイメージの奥行きが感じられます。こだわった点を教えてください。

デザインを着想した時点でモデル像とスタイリングが浮かび、そこからアイテムをデザインしていく流れです。ルックの撮影ではその時のイメージを再現する感じ。スタイリングからカメラまで全て担当しています。ロケ地は大学周辺と江ノ島の海岸沿い、崖から岩が落ちてくるなど過酷でした…。
今回のテーマは90年代のレイブ、マッドチェスターというUKの音楽カルチャーと2000年代初頭のMTVみたいなダサい感じから着想を得ているけど、それらを日本で発表するにあたって日本人のモデルを使いたくて。坊主の子はバンドマン。海外が東京を見るときに感じている、”AKIRA”のようなレトロフューチャーな感じに見せることを意識しています。

 

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ーエリオットサイコは今後どのように展開しますか。

やりたいことはたくさんあるけど、やはり直接見てもらうことを1番大事にしたいです。
今はインスタグラムで服は見られるし、ブランドを作れば個人で発信もできる時代だからこそ、アナログに直接見てもらう機会を大事にしたいですよね。地道に取り扱いを増やしていくのも、取り扱い先との関係性にも責任をもって臨むことは必要だと感じます。そして20歳という年齢だからこそクリエイションできるものも意識しながら、デザインを続けていくことに意味があると信じています。あとはランウェイ。音楽と一緒にコンセプトを明確に示せるものを披露したいです。あれはダイレクトにはお金にならないことだし、業界の外の服にお金を出さない人たちから意見を言われることもある。資金や気持ちの踏ん切りがつけばチャレンジしたい。他には、様々な分野とのコラボレーションにも興味があります。身近なところでは大学など一般の学生とのコラボとか楽しそうですね。

 

ー今のファッションシーンに思うことは。

様々な格好の人たちがいて、東京はやはり流れが早いと実感します。先にも述べたように今はネットが普及している時代です。僕が秋田にいた頃のように、前情報や誰かしらの評価がない状態でブランドに出会い、自ら発掘していく経験が少なくなって来ていますよね。これは僕の好みの問題かもしれないですけど、TUNEを読んでいたあの頃と比べて面白い人が減っていき、外側をなぞることが上手い人が増えている。そうした中身を知ろうとしないことに気持ち悪さを感じます。
例えば、サチモスが着てるからアディダスのトラックトップを真似して着ること。それは違うでしょって。ブリットポップのオアシスからの影響だということは、大半の人は知らないと思う。ボンテージパンツもよく目にするけど、それにアメジャンを合わせているのとかも引っかかりますね、ひねくれているのかもしれないけど。

 

 

ーありがとうございました。最後に、同世代の若者へメッセージをお願いします。

自分が声を大にして言えることではないけれど、使い古された言葉で言えば人生は一度きりだから、好きな物事があって、熱意と環境があるならば行動してみるべきではないかな。「なるようになる」ということは絶対にない。僕はこれからもやりたいことはたくさんあって、音楽も写真もタイミング次第でアクションを起こすことを考えています。ファッションに関していうと、知識も資金も足りない状態からスタートして、現状として2シーズン目を迎えることができ、クリエイションしたものがお客さんに届くところまで来れた。僕は行き当たりばったりでカツカツでやって来たので、工場探しや地方営業など苦労も多かったけれど、若いからこそ助けてくれる人もいた。本当に将来ファッションで生きていくなら、若いうちに経験しておくことが勉強になるんじゃないですかね。近い目標を決めて、逆算しながらすべきことに挑戦していくのが良いと思います。

 

 

Brand official site: https://www.eliotpsycho.com
Instagramhttps://www.instagram.com/eliotpsycho_official/

 

Text:Naoko InoueREADY TO FASHION編集部

READY TO FASHION MAG 編集部

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