高機能スーツ

紳士服大手の株式会社AOKIや作業着の株式会社ワークマンなど各社から次々発売されている「高機能スーツ」が、いまネット上で話題を集めています。

AOKIが2021年2月1日に先行予約販売を開始した「アクティブワークスーツ™」は、上下あわせて4800円の低価格設定や、家庭でも手入れ可能な高機能性に注目が集まり、初回生産分は2週間で完売。店頭販売も混雑が予測されるため、生産数量が安定するまで延期されることが決まり、2月15日には早くも第2弾アイテムの販売も開始されています。

一方、先日ワークマンが発表した「リバーシブルワークスーツ」は、上下セット4800円とAOKIの「アクティブワークスーツ™」と同価格でありながら、裏返せば作業着にもなるというワークマンならではの機能が盛り込まれています。こちらも第一弾商品がオンラインストアおよび一部店舗で完売しており、高機能スーツ市場の盛り上がり具合が伺えます。

昨今、これまでとは異なるスーツ需要の高まりが見えています。

AOKIやワークマン以前にも高機能スーツは各社から販売されていましたが、改めて注目されるようになった背景には、新型コロナウィルスの流行とそれによって定着しつつあるテレワークなどの新しい働き方の普及があると考えられます。

この記事では、働き方の現状と服装意識の変化を読み解きながら、話題の高機能スーツを一部紹介。これからのビジネスウェアに求められる要素について考えてみたいと思います。

テレワークの現状と近年のスーツ事情

高機能スーツ好調の背景に迫るべく、まずはコロナ禍以降に変化した働き方の実態とスーツ市場の現状から簡単に見ていきましょう。

株式会社パーソナル総合研究所が全国の正社員約2万人を対象に2020年11月18日~11月23日の期間で実施した新型コロナ下におけるテレワーク実施率に関する調査によると、正社員のテレワークの実施率は全国平均24.7%という結果が出ています。

テレワーク実施率
テレワーク実施率(全国平均)の推移(株式会社パーソル総合研究所の調査結果より)

20年4月7日に発令された緊急事態宣言の直前期である20年3月9日~15日に同社が実施した調査結果が全国平均13.2%だったのをみると、新型コロナ以降国内でのテレワークは徐々に普及しつつあると見えます。

参考記事
新型コロナによるテレワークへの影響について、全国2万人規模の緊急調査結果を発表 急増するテレワーク。正社員の13.2%(推計360万人)がテレワークを実施

また、テレワーク実施者へのアンケートの結果によると、テレワーク実施のメリットとして「身支度にかかる時間やコスト(被服費等)が削減できる」が60.9%、「リラックスして仕事ができる」が57.2%との回答がありました。

テレワーク実施のメリット
テレワーク実施のメリット(株式会社パーソル総合研究所の調査結果より)

加えて総務省の家計調査によると、2020年の1世帯あたりの背広服の年間平均消費支出額は2465円という結果が出ており、これは前年2019年3642円から約3割近く減少しています。

1世帯当たりの年間の背広服の消費支出額の推移(総務省「家計調査」からGDFreakが作成)
1世帯当たりの年間の背広服の消費支出額の推移(総務省「家計調査」からGDFreakが作成)

これらのデータから読み解くに、近年は手頃な値段帯であり身支度が簡単でストレスのない仕事着が求めていると言えるのかもしれません。その最適解として高機能スーツに注目が集まっているのではないでしょうか。

高機能スーツの代表事例

賑わいを見せている高機能スーツですが、その代表事例を一部紹介します。

AOKI 「アクティブワークスーツ」

「アクティブワークスーツ™」(上下4800円)
「アクティブワークスーツ™」(上下4800円)

冒頭でも触れたAOKIの「アクティブワークスーツ™」は、シーンを選ばずに着られる手頃な価格帯のスーツに対するニーズに応えるべく、新たにラインアップされた高機能スーツです。

AOKIが培ってきたスーツ製造技術をいかした立体縫製やストレッチ性を重視したオリジナル素材、ウエスト部分などに採用された伸縮素材が長時間の着用でも疲れづらい着心地を実現。着座状態でも快適な機能性を備えています。

上下4800円(ジャケット2900円、スラックス1900円)の低価格が反響を呼び、発表から2週間程度で第1弾、第2弾ともに予約販売分はほぼ完売。新色の予約販売を開始するなど、高機能スーツに対する盛況具合が伺えます。

またそのニーズに呼応してか、同傘下ブランド「ORIHICA(オリヒカ)」も2016年より販売していた高機能スーツ「THE THIRD SUITS®」を1万5180円(ジャケット1万890円、スラックス4290円)に価格改定し、「ORIHICA」全店およびオンラインショップでの販売を開始しています。

【販売サイト】
https://www.aoki-style.com/feature/activesuit/

ワークマン 「リバーシブルワークスーツ」

ワークマン
「DotAir®リバーシブルワークスーツ」(上下4800円) 4月発売予定

AOKIの「アクティブワークスーツ™」と同時期に発表されたワークマンの 「リバーシブルワークスーツ」は、ワークマン公認アンバサダーであるファッションアナリスト山田耕史氏と共同開発した「Neo Work Style~作業服の再定義~」をテーマとする高機能スーツです。

その最大の特徴は、裏返すことでスーツと作業服の2種類の着用方法が可能なリバーシブル機能。現場作業やオフィス訪問など様々な場面での使用を想定しており、持ち運びしやすいポケッタブル仕様や工具類を収納できる大容量収納、耐久撥水加工など、工事現場作業員をメインターゲットにした様々な機能を備えています。

第1弾商品では帝人フロンティア株式会社の高機能素材「SOLOTEX®」を採用、4月に発売される予定の第2弾商品では東レ株式会社が開発したメッシュ調高通気素材「DotAir®」を採用しており、現場作業のプロのニーズに応える素材選びにワークマンの独自性が光ります。

【販売サイト】
https://workman.jp/shop/default.aspx

オアシススタイルウェア 「WWS」

WWS
「WWS Bizモデル」(上下3万3000円) モデルに総合格闘家の所英男を起用

オアシスライフスタイルグループ傘下の株式会社オアシススタイルウェアが手がける「WWS」も高機能スーツ市場注目ブランドの1つです。

オアシススタイルウェアは、オアシスライフスタイルグループが持つ水道工事事業に関するノウハウをもとにビジネススーツ型作業着「ワークウエアスーツ」を開発。2018年3月の発売以来、現場のニーズに応えるその機能性に高い評価が集まっており、現在ではサービス業や製造業など約850社にユニフォームとして導入されています。

今年2月16日にはブランド名を「WWS」に変更。アートディレクターの葛西薫・株式会社サン・アド常勤顧問が新ブランドロゴを監修、オアシスグループ顧問の重松理・ユナイテッドアローズ名誉会長がディレクションに関わるなど、より幅広いライフスタイルを対象とした、“ボーダレスウェア”ブランドへとリブランディングしています。

リブランディングを象徴するアイテムとして、2月17日より「WWS Bizモデル」(上下3万3000円、ジャケット1万9800円、スラックス1万3200円)を販売開始。従来アイテムが備えていたストレッチ性や速乾・撥水性、多収納などの高機能性やシーズンレス・シーンレスに着用できるデザインはそのままに、より立体的かつフォーマルな印象にリデザインされています。

ほかにもコロナ禍で増えた自転車通勤者をターゲットに、ベイクルーズグループの「417 EDIFICE(フォーワンセブン エディフィス)」、株式会社あさひが運営する自転車専門店「サイクルベースあさひ」とコラボした自転車通勤者向け機能性セットアップ(上下3万2780円、ジャケット1万9580円、スラックス1万3200円)を2月23日に発売。新たに確立しつつある高機能スーツ市場での今後の展開が期待されます。

【販売サイト】
https://www.workwearsuit.com/shop/contents/products

ALLYOURS 「着たくないのに、毎日着てしまう」

ALLYOURS
「着たくないのに、毎日着てしまう」セットアップ(上下3万8500円)

「インターネット時代のワークウェア」をコンセプトの1つに掲げる「ALLYOURS(オールユアーズ)」の「着たくないのに、毎日着てしまう」セットアップも代表事例として挙げられるでしょう。

「着たくないのに、毎日着てしまう」セットアップ(上下3万8500円、ジャケット2万2000円、スラックス1万6500円)は、独自開発の機能性ポリエステル生地を使用しており、ストレッチ性や防シワ性、吸水速乾性、耐久性を備えつつもウールのような清潔感のある見た目でビジネスシーンでも着用可能なデザインに仕上がっています。

ほかにも、全てのボタン部分に採用されたドットボタンやジャケット背面の隠しポケットを含む大容量収納など、着る人の生活に寄り添ったディティールが特長。これまでの事例とは多少文脈が異なりますが、2017年以来、SNSを中心に人気を集めていた「ALLYOURS」の同商品は、これからのビジネスウェアや高機能スーツのあり方を考える上で参考になるかもしれません。

【販売サイト】
https://allyours.jp/collections/all-products

高機能スーツに共通する要素

スーツの要素

上記4事例を概観した上で、高機能スーツそれぞれに共通する要素、注目を集めているポイントを抽出してみました。

ストレッチ性に優れた高性能素材

まず共通するのは、その機能性を支える高性能素材です。

帝人フロンティアの「SOLOTEX®」や東レの「DotAir®」、「WWS」のオリジナル素材「ultimex」など、高機能スーツの多くは、スポーツウェアなどで使用されることの多いポリエステルをベースにした生地を採用しています。

各高機能スーツに採用されているポリエステル生地はストレッチ性に優れた素材です。加えて、急な雨や衣服の汚れを防ぐ吸水速乾加工・撥水加工、見た目の清潔感を保つイージーケア加工・防シワ加工が施されていることも多いため、座りでのデスクワークから自転車での通勤まで様々な場面に対応可能です。様々な働き方や着用シーンに応える高性能素材は、高機能スーツの必要条件と言えるでしょう。

自宅で洗える

上記項目と同じく素材特性に関わる点ではありますが、自宅で洗える点も高機能スーツに支持が集まっている要因の1つです。

従来のスーツは家庭でのケアや洗濯が難しくクリーニングに出す必要もあり面倒臭さやコストがついて回りましたが、その労力やコストを省けるため、家庭でケアできる高機能スーツは重宝されます。

最近ではそれに加えて、ウイルス感染対策の一環としても高機能スーツの自宅で洗える点は注目されています。必ずしもウイルス感染を予防できるとは限りませんが、コロナ禍以降の意識の変化として不安を払拭できるという意味で、毎日洗える点が高機能スーツの人気を支えていると考えられます。

低価格な値段帯

従来のスーツと比べると、高機能スーツは比較的安価な点が特徴です。

年間平均消費支出額のデータでもわかる通り、年々スーツへの出費は低下しています。加えて、コロナ禍以降の収入減少や経済的な不安なども影響して、より被服費出費の減少が予想されます。

それらの経済的課題と働き方の多様化の合流地点として、高機能スーツが注目を集めているのかもしれません。

大容量収納

ワークマンの「リバーシブルワークスーツ」や、「ALLYOURS」の 「着たくないのに、毎日着てしまう」セットアップなどに顕著ですが、大容量収納も幅広い働き方を支える機能の1つです。

「リバーシブルワークスーツ」であれば現場作業からオフィス訪問までを想定しているため、「着たくないのに、毎日着てしまう」セットアップであれば全ての人に最適な選択を提案するため、複数の収納ポケットが備わっています。

この点に関しては特に、従来の紳士服業界からのアプローチというより、現場作業着分野など他領域からのアプローチが目立ちます。多収納性のようなスーツの既成概念に捉われない機能も高機能スーツの魅力の1つです。

記号としてのスーツ

従来のスーツはいわゆる“社会人の制服”と言えるようなものであり、そこには信頼感や清潔感、“しっかりしてる人感”“ちゃんとしてる感”が記号として宿っていました。高機能スーツは、外見上の特徴についてはスーツに倣っているため、その記号的な要素を引用している部分があるかと思います。

働き方の多様化によって自由な服装で働くことが認められつつありますが、その一方で、服装の選択で困惑してしまう人も少なくありません。そのため、スーツのフォーマルさと私服のカジュアルさの中間項として、それらの記号を備えた高機能スーツが支持を集めていると予想されます。

さらに、コロナ禍以降オンラインミーティングやWEB面接など、オンラインでの対面の機会が急激に増加しています。

先ほども触れた通り、高機能スーツの大半は従来のスーツでは使用されていなかったようなポリエステルをベースにした高性能素材を使用しています。ポリエステル生地の多くはやや光沢感のある比較的カジュアルな印象を与えうる素材ではありますが、カメラを通して見るとその素材感はあまり目立ちません。テクスチャーが喪失したオンライン上の場合、見た目上スーツであることが優先されるので、その観点からも記号としてのスーツになり得る高機能スーツが支持を集めているのかもしれません。

高機能スーツを着て

コロナ禍以降の働き方の変遷を振り返りつつ、高機能スーツの事例や特徴をみてきました。

高機能スーツ市場の盛況を見るに、ファッション・アパレル業界の市場隆盛は、社会動向や日常生活の変化に伴っていることがわかります。

今後さらに拡張・拡散していくであろう働き方に注視しつつ、それぞれのニーズに対応しうるビジネスウェアを検討することがファッション・アパレル業界に求められているのかもしれません。

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秋吉成紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

ライター・編集者。1994年東京都出身。2018年1月から2020年5月までファッション業界紙にて、研究者インタビューやファッション関連書籍紹介記事などを執筆。2020年5月から2023年6月まで、ファッション・アパレル業界特化型求人プラットフォーム「READY TO FASHION」のオウンドメディア「READY TO FASHION MAG」「READY TO FASHION FOR JINJI」の編集チームに参加。傍ら、様々なファッション・アパレル関連メディアを中心にフリーランスライターとして活動中。

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