慶應義塾大学の「ファッションビジネス研修会」から生まれ、毎年100人以上が所属する大型学生服飾団体、Keio Fashion Creator。服飾専門学校エスモードジャポンと提携し、毎年テーマに沿ったファッションショーを開催しています。

今回は、そんなKeio Fashion Creatorのデザイナーチームに所属する那須柾斗さん、鈴木湖永さん、飯島恒典さんにKeio Fashion Creatorでデザインを学ぶ理由やその魅力について伺いました。

日々考えていることを形にするのが面白いと語る部員の思いとは?

服作りを始めたきっかけ

ーー改めてKeio Fashion Creatorの活動について教えてください。

飯島:毎年12月にファッションショーを開催しており、それに向けてデザイナー、ディレクター、モデルマネージャー、プレスの4つのチームがそれぞれ活動しています。

デザイナーチームは、ファッションショーに出すルック制作が主軸。毎週土曜日にエスモードジャポン東京校に通い、実際に講師の方に教えてもらいながら服作りを学んでいます。ショールックの制作期間以外では、ルックブックの制作なども行っています。

プロフィール:飯島恒典(いいじま・こうすけ)Keio Fashion Creatorデザイナーチーム所属
2003年生まれ。好きなファッションブランドは「COMME des GARÇONS」。

ーーみなさんは普段、大学でどんなことをしているんですか?

飯島:僕は武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科に通っています。ファッションやインテリア、舞台芸術など幅広い観点から空間作りを学んでいます。

鈴木:私は文系大学の英語学科に通っています。ファッションのことを学べる機会はあまりないのですが、イギリスの文学や文化を学ぶ中でファッションにつながるところもあるので、自分なりに関連付けて勉強しています。

プロフィール:鈴木湖永(すずき・こと)Keio Fashion Creatorデザイナーチーム所属
2004年生まれ。好きなファッションブランドは「noir kei ninomiya」。

那須:慶應義塾大学の環境情報学部に通っています。アートと学問の中間地点のような学部で、心理学や社会学、モノ作りまで何でも学べる環境です。僕はモノ作りを中心に学んでいて、昨年は3Dプリンティングの研究室に入っていました。

ーー皆さんが洋服をデザインしてみたいと思ったきっかけは何だったんですか?

那須:僕は、デザインすることよりも音楽が好きということから入っています。一番影響を受けているのも音楽アーティスト。特にトランスなどのクラブミュージックやアンビエントが好きなんです。そういったアーティストのファッションに影響を受けていて。それともともとモノ作りが好きということもあってデザインに興味を持ちました。

プロフィール:那須柾斗(なす・まさと)Keio Fashion Creatorデザイナーチーム所属
2000年生まれ。好きなファッションブランドは「HAMCUS」。

鈴木:私は高校生の時からリメイクをするのが好きで、バッグにリボンを付けたりしていて、そこから本格的に洋服を作ってみたいと思ったんです。

飯島:僕は小さい時から絵を描くのが好きだったんですけど、高校時代にファッション好きの友達の影響でファッションに興味を持つようになってから、その二つがつながってデザインしたいと思うようになっていきました。

さまざまなフィールドの人たちが集まってデザインできる場所

ーー数ある服飾系の学生団体の中から、Keio Fashion Creatorを選んだきっかけは?

飯島:コム・デ・ギャルソンが好きな友人から、体験入部に誘われたのがきっかけでKeio Fashion Creatorを知ったのですが、他を寄せ付けないような独特の空気感に魅力を感じ入部を決めました。

あとは他の服飾サークルと違って、専門学校と提携している点も大きかったです。自分の手でちゃんと作りたいと思っていたので、講師の方に教わりながら自分で制作できるサークルで挑戦してみようと思いました。

鈴木:私は大学生のうちに、何かしらの形でファッション関連のことに取り組みたいと思っていて。そんな中で見たKeio Fashion Creatorのファッションショーのルックがかっこいいなと率直に感じて入部しました。

那須:大学でモノ作りをしているので、デザインすることにも興味があったのが入部のきっかけです。大学生活が終わる前にやりたいことを全部やっておきたいっていう思いが後押しして、3年生になるタイミングで入部しました。

ーー実際に入部してみて、どんな魅力を発見しましたか?

飯島:一般的な専門学校と違って特定のフィールドに定まらず、それぞれ学んでいる分野や趣味の異なる人たちが、服を作るという同じ目的のもとに集まっています。なので、その人の政治的な思想や学んでいることが、それぞれのルックに反映されているのがすごく面白いです。

鈴木:私も同意見です。インカレだからこそ違う世界の人たちが毎週土曜日に集まってデザインするのが魅力だと思います。

あとは、毎週土曜日にみんなに会えることもやりがいの一つ。個人で作業することが多く和気あいあいとした雰囲気ではないのですが、良い意味で馴れ合いがないので、そこも逆に魅力です。

自分にとってデザインすることとは?

ーー最初に、那須さんの制作したルック「和紙・折紙・服」について詳しく教えてください。

那須:今回のショーでは、ルック全体を折り紙で作りました。一般的に直線で折る折紙ですが、曲線にして折るとより幾何学的な雰囲気になるんです。そういった機械的な雰囲気が好きで、スカートに関しては裁断などはほとんどせず折るだけでルックを作りました。

  • 「和紙・折紙・服」

ーーなぜ和紙でルックを作ろうと?

那須:実際に受けた折紙の科学という授業が面白くて、そこから折紙の洋服を作りたいなって思ったんです。

今回のファッションショーのテーマである「明晰夢」の意味は、非現実的なもの。このテーマを自分なりに表現する上で、現実にはまだないものを作りたいと思いました。

なので、折紙や和紙を使って光を通したりといったような、さまざまな工夫を凝らしながらやったことのない組み合わせのデザインを服に落とし込んだんです。

ーー制作する中でどんなことに面白さを感じましたか?

那須:これまでにないものや、誰もやったことがないことをデザインして形にする面白さを実感しました。でも和紙で作っているので、ミシンで縫ってもすぐ破けてしまって苦労しました。和紙をミシンで縫った時とは違い、布を縫った時はその縫いやすさに感動しました(笑)。

ーー鈴木さんの作品は「異類婚姻譚(いるいこんいんたん)」や「兎魚(うぎょ)」などタイトルのインパクトが強いです。作品に込めた思いや意図を教えてください。

鈴木:「明晰夢」の自分なりの解釈は、現実と非現実のはざま。異類婚姻譚は、現実と非現実をごちゃ混ぜにしたルックとして表現しています。

そもそも異類婚姻譚とは、人間と異類(動物や想像上の生物)との婚姻を説く昔話。フィクションだけど、もしかしたらノンフィクションになるかもしれない期待を明晰夢とリンクさせています。

異類婚姻譚のルックで、上半身に巻きつけてあるものはタコをモチーフにしたもの。身体に甘いものを塗ってタコに噛ませる昔の刑罰という現実の要素と、タコが人を惑わせる言い伝えからタコと人間が結婚する異類婚姻譚を表現しています。

  • 「異類婚姻譚」

もう一つのルックは、上半身がうさぎで、下半身が魚のぬいぐるみをつけている「兎魚(うぎょ)」です。

  • 「兎魚」

裏テーマは「動物実験」。うさぎは温厚な性格なので動物実験でよく使われるんです。今回のルックで表現したかったのは、動物実験に耐えられなくて泣いてしまったうさぎの涙が広がっていって、その涙の水の中で生きていくために下半身が魚になったというストーリーです。

ーー制作期間でやりがいを感じた時や大変だったことは?

鈴木:自分が表現したいものがうまく形にできないと感じることが多々あるのですが、そこに対しての自分なりの解決策や具体的な案が出てくると、やりがいを感じますね。

大変だったことは、デザイン画やフィッテングなどの制作過程でデザインが変化していくことです。制作しながら自分もその変化についていくのが大変でした。

ーー飯島さんが制作した「永遠の胎児」と「溶ける身体」のルックにはどういう意味があるんですか?

飯島:僕は「明晰夢」をシュルレアリスムと捉えました。シュルレアリスムは理性的な制御や道徳的な一切の概念から解放された放心状態、無意識がテーマなんですが、今回の作品ではシュルレアリストのサルバドール・ダリを参考にしています。

ダリの芸術哲学の中心には、硬いものと柔らかいものへの執着があって。例えば溶けて柔らかくなった時計を描いた「記憶の固執」など、理性的なものの表象が溶けるモチーフはダリの永遠のテーマなんです。

そこからインスピレーションを受けて、硬いものを伝統的な西洋の衣服、ハードウェアで表現し、本来布ではないレジ袋を二次加工した素材をソフトウェアとして使うことで下半身にかけて、ダリが表現したような溶けている表現ができるんじゃないかと考えました。

  • 「溶ける身体」

「溶ける身体」は、理性の解放を目指したシュルレアリスムを通して「本当に人類の特権である理性は確からしく善いものなのか」という疑問や批判を込めて作ったのですが、「永遠の胎児」では、「溶ける身体」で考えの土台となっているシュルレアリスムの批判をしています。

  • 「永遠の胎児」

西洋では主に中世から、ある時は女性を淑女・聖女として描き、ある時は魔女や娼婦として描いているように、女性を常に男性の視点からでしか描けていないと思うんです。この考えはシュルレアリスムでも変わらず、女性を性的な対象や絵画の対象としてモチーフにしていることが多いです。シュルレアリストたちは理性の否定と言いつつ、実際に否定できていないんです。

なので、今回のルックにプリントされている胎児は実はダリになっています。よく見るとそのダリには、へその緒の代わりに男性器がつながっていて、性の消費から逸するという意味でショーの途中で子宮を外して持ち歩く演出をしています。

また母乳が出る機能を無くして溶けた胸にしたりと、シュルレアリスム的な手法を使いながらシュルレアリスムを否定しました。

ーー飯島さんにとってデザインすることとは?

飯島:自分の恥部を公式的に晒してるような気持ち。全てをさらけ出している気分で、そこに心地よさを感じます。

今回のルックも、美術大学での素材研究を通して開発した、炙ったレジ袋にボンドとアクリル絵の具を混ぜた水溶液で染めて作った素材を応用したのですが、デザインに向けてリサーチしたことと、日常で本を読んだり家の中でもじもじ考えていたりしたこととが組み合わさって形になった時が面白いですね。

分野を横断した方が面白いものができる

ーーファッションショーを終えてみての思いは?

飯島:ショーが終わった次の日から、まだやり切れてないという実感があります。その時は全力でやったので後悔はありませんが、次のファッションショーでは自分の中でレベルアップしたものを作りたいです。

鈴木:達成感はもちろんあったのですが、改善点もたくさん見つかりました。作品に完成形はないと思うので引き続き作品と向き合っていきたいです。

那須:僕も一緒で、もうちょっとできたなと思っています。タイムマネジメントが苦手なので、次のファッションショーではもっと修正の時間を確保します(笑)。

ーーもう次に行こうとする姿勢がすごいですね。大学卒業後のビジョンはあるんですか?

鈴木:明確にはありません。でも、小さい頃からファッションに携わりたいという夢がある中で、今こうして服を作ることでファッションの楽しさを改めて実感しています。今後どのようにファッション業界に携わるのか、模索しながら考えています。

那須:僕は地上波の番組制作をしたいです。以前、児童相談所で職員として働いてたんですけど、その時にさまざまな環境の子どもたちを見て、知るべきことがたくさんあると感じたんです。

それを身近に感じてもらえるように、どんな人にも見てもらいやすいようなドキュメントバラエティーを作ってみたいなって思ってるんです。

飯島:僕はファッション関係の空間作りができたらいいなって思っています。自分の通う大学の教授にはイッセイミヤケや資生堂のショーケース、インスタレーションを担当している人もいて。百貨店のインスタレーションやブランドの内装デザインなど、自分の好きなことの周りを作れるようになったら一番いいなと思います。

ーー学んでいるデザインをどうやって活かしていきたいですか?

飯島:分野を横断した方が面白いものができたり新しい価値観が生まれたりすると思うので、服か服じゃないかにはこだわっていません。

将来、服に関係することをやらなくても、モノ作りをしていく上でこの経験は絶対に活きると思うので、それをどうやって他の分野に展開できるんだろうなっていうことを楽しみたいです。

那須:僕もデザインすることをどうやって活かすかは考えていないです。今言った通り、一つのことだけやっていると思考が偏ってしまうと思うんです。

たくさんのことに触れ、それが結果としてどう活きるか分からないけど、何か制作した時にいつか形になるんじゃないかなと思います。

Keio Fashion Creatorについて

学生の私たちがファッションショーを行い、私たちの意志を表現すること。私たちは「学生であること」の自由と制約の中で、部員と社会をつなぐ架け橋となり、表現を形にできる場所、クリエイターになれる場所であり続けます。

当団体では服に限らず、自分の好きなことに対して真っ直ぐに向き合う部員が多数在籍しております。部員それぞれ学んでいることが異なり、ファッションに対する切り込み方も人それぞれです。

学生のみで団体運営やクリエーションを行っているため、さまざまな壁に出会い、悩むことも少なくありません。しかし、もがきながらも前に進み続け、必ず一つのショーを創り上げる、この過程の中で何にも代えがたい経験やスキル、気づきや出会いを得ることができます。

引退後、一般企業に就職する部員もいる一方でファッション業界やクリエイターの道へ進む部員も多いのが特徴といえます。

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三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。音楽、ドラマ、食、本などすべてにおいて韓国カルチャーが好き。