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株式会社READY TO FASHIONは2020年7月16日(木)〜22日(水)の1週間、ファッション・アパレル業界のキャリア・市場の動向などを知るライブ配信イベント「READY TO FASHION LIVE WEEK」を開催しました。

本イベント内で業界を牽引する14社と共に各日で行った、EC・スタートアップ・業界動向・キャリア・繊維商社の5つのテーマについてのオンライントークセッションの様子をレポートしていきます。

今回のテーマは「EC(ネット通販)へ未経験から挑戦するには?」。

EC領域の第一線で活躍されている責任者クラスの3名に登壇いただいたトークセッションでは前半に引き続き、EC担当者になるまでのキャリア形成やECと店舗のバランスなどについて語っていただきました。

ECの最前線にいる方々からのアドバイスは、これからEC領域で活躍したいと考えている人にとって必ず役立つはずです。

前編はこちら↓


パネルディスカッション登壇者

越智将平(株式会社ナノ・ユニバース 経営企画本部 WEB戦略部長)

2002年株式会社ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECの担当となる。2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大、CRM、デジタルマーケティングを中心に、店舗とECの融合に取り組んでいる。

川添隆(株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長)

佐賀県唐津市出身。アパレル関連企業を3社を経験後、2013年7月よりメガネスーパーに入社。EC事業、オムニチャネル推進、デジタルに関わる全てを統括し、7年弱でEC関与売上は7倍、自社ECは月間受注は13倍に拡大。O2O・オムニチャネル推進を図る。2017年よりビジョナリーホールディングスを兼務。2018年より執行役員。

林亮介(株式会社AOKI デジタルマーケティング・ネット通販事業部責任者)

茨城県出身。2009年新卒で株式会社AOKIに入社。店舗販売員を2年経験後、人事採用、経営戦略、マーケティングWEB担当、新規事業開発など各部署を経験。採用担当時代からSNSやWEBセミナー開催などデジタル施策を積極活用し、マーケティング担当になってからはGoogle社などとのコラボレーション施策やアプリ開発などを推進し、WEB経由の売上を4年間で5倍に成長。新規事業開発ではオーダースーツ事業の予約システム開発、ブランドサイト構築、マーケティング全般を担う。2020年よりAOKI・ORIHICA両ビジネスウェアブランドのネット通販事業部の責任者。


ECとの出会い

──まずは、EC領域に関わるようになったきっかけを教えてください。

越智:2005年にナノ・ユニバースがZOZOTOWNに出店するタイミングから、社長の指示ではじめました。当時はEC部門がなかったので、店舗の店長と兼任でやってましたね。

当時のZOZOTOWNはいまのような直営ECとは全くの別物で、基本的に商品を送ればささげ業務などすべてZOZOTOWN側がやるフルフィルメントサービスをやっていました。ナノ・ユニバースもEC用の発注がなかったので、渋谷の店舗から商品を発送していました。初月の売上が100万近くあり、単価が高い商品もよく売れていたので、ECって意外に売れるものなのかと思いましたね。

──川添さんはどのようなきっかけでEC領域に関わるようになったのですか?

川添:EC領域に関わるようになった転機は2回ありました。1度目は2006年にクラウンジュエルに入ったときです。アパレル業界に入りたくて入ったのですが、どうしても大きい会社だと動きが鈍くなってしまうなと当時の職場で感じていました。

そこで、どのような会社であれば自分がやりたいことをすばやく実現できるのだろうと考えるようになったのですが、ちょうどその頃がサイバーエージェントなどが話題になっていたベンチャー企業ブームの最盛期だったんですね。

ベンチャーであれば実現できそうだと思い、そのなかでたまたまファッションを扱っているクラウンジュエルを見つけたので入社しました。なので、最初はECをやりたいから入ったというわけではありません。その頃はむしろ、ZOZOTOWNなどのECモールは本当にうまくいくのかと懐疑的な部分がありました。結果的にクラウンジュエルはスタートトゥデイ(現ZOZO)の傘下に入ることになりましたが(笑)。

2度目の転機は、その後に2010年にクレッジにEC専任として入ったときです。クラウンジュエルはブランドの卸の営業やPRなどもやっていましたが、クラウンジュエルでの経験をいかしつつあらためてほかの場所でファッションの会社を元気にしたいと思い転職することにしました。確証はないですけれどもEC領域に成長する可能性を感じたので、この時からEC一本でやっていこうと決めましたね。

──柔軟かつ素早く動き出せる組織であれば、未経験からでもECに取り組むチャンスがあるのかもしれませんね。林さんはいかがですか?

林:人事部にいた頃、採用ページの作成やSNS採用、ウェブセミナーなどウェブを意識した既存とは違うやり方を意識して採用活動をやっていたので、その時の経験を評価されて現在の部署に配属されたのだと思います。

ECに関しては目の前の仕事をやっていく中で自然にのめり込んでいきましたが、最初にECをしだしたのはコーポレートサイトとECサイトを統合しようとした際に、EC担当者と話すようになってからだったと思います。

まずは声をあげること 

──現在のEC部門に在籍されている方はどのようなキャリアの方が多いのですか?やはりEC担当経験がある方が多いのですか?

越智:ナノ・ユニバースの場合は半分近くが店舗スタッフ出身ですね。社内公募で店舗スタッフがEC部門に入ってくることが年に数回ありますが、PCスキルを持っていない場合も多いので技能や実務経験はあまり重視しません。それよりも挑戦意欲が強い人を主軸に採用します。

川添:メガネスーパーのECチームは、人事や広報企画、企業戦略チーム出身などが多いですが、ずっとEC専門の人は僕ともう1人以外はいませんね。

林:AOKIもEC経験者は2〜3人程度です。特徴として、社内でECをやりたいと言っている人はわりとすぐチームに組み込みます。社内での発言が伝わって異動につながることが多いので、社内でやりたいことを言い続けることは大事かなと思います。

──EC未経験者がチームに加わった際はどのような業務から関わることが多いのでしょうか?

越智:ナノ・ユニバースでは店舗スタッフから入ってもらうことが多いので、最初は商品ページの商品説明の作成などの販売経験の延長線上の業務を中心にECに慣れてもらいながら、ほかの業務にも関わってもらう流れになりますね。

川添:EC業務は細かい作業が多く教育に時間がかかるので、メールマガジンの作成などから担当してもらうことが多いです。メルマガにはテンプレートがあるため業務を覚えやすく、明確に売上に直結するものなので、その変化を体感してもらうためにやってもらいます。

林:AOKIでもメールマガジンやLINEなどの配信物を最初に担当してもらっています。同様に、フォーマットに合わせることから始めるので本人も覚えやすく、反応が数値としてみやすいのでモチベーションや創意工夫につながりやすいのかなと。

EC担当者として最短距離で成長するために

──EC担当になりたい場合はどのようなキャリアプランが必要になるのでしょうか?

越智:今からECに携わるとなると、組織の規模によってやることは大きく変わると思います。どっちが良い悪いという話ではなく、小さな企業だと業務の幅はとても広くなるため、商品投入や在庫管理などのMDのような業務からECサイトのシステム設計、コンテンツ作成、商品撮影まで覚えなくてはなりません。自分もECに関わり始めた頃は、一眼レフやAdobeのソフトなどの使い方を一からすこしづつ覚えながらやっていました。

一方大きい組織だと役割が細分化されてきているため、企業によってデジタルマーケティングに特化したチームやSNSチームなどを置いているところもあるので、どの分野をやりたいのかで見極める必要があるかと思います。

川添:ECとひと口に言っても様々な業種があります。ZOZOや楽天などのいわゆるプラットフォーマー企業の場合は、細かく役割が分かれているので専門職のような状態になっていますし、自社ECをやっている企業の場合は、役割が横断的になっているケースも多くみられます。重要なのは、経験の有無よりもその会社のカルチャーにあうかどうかです。採用側もその点を注視しているので、仮にECの実務経験が豊富な人でも企業文化にあわないのであれば採用されないこともあると思います。

──EC未経験者がやっておくべきことや意識しておくべきことを教えてください。

林:EC担当になってから、自社ECサイトや他の企業・ブランドのECを積極的に利用するようにしています。消費者として実際に使ってみることで、他社ECの参考になる機能や自社ECの改善すべき点などに気付けるので、まずは使ってみることが大切かなと。あとは、何か一つの事象に対して原因を考えようとする探求心は、ECに限らずいろいろな仕事に通じる大切なことだと思いますね。

川添:ECチームの採用面接時には、普段どのようなECサイトを利用しているかを必ず聞くようにしています。ECの企画やディレクションをやりたいと言う一方で、ZOZOや楽天は使っているが自社ECサイトはあまり利用していないという人がいますが、自社サイトを研究していないのであればつじつまが合わないですよね。

また、EC担当者は物と人の流れを把握しなくてはいけません。そこではデータを分析できる能力が重要になってきます。データを見れるようになると売上が上がる可能性や変化を感じとれるようになるので、商売人としては必要なスキルだと思います。店舗スタッフであれば、時間帯別の入店客数と売上の関係などを意識しておくとそのスキルを養えるはずです。林さんのようにいろんなサイトを比較して違和感を持てる人は最短距離で成長できると思いますね。

質疑応答1:越境ECはどうすれば成功するのか?

──最後に、ご視聴いただいてる皆様から登壇者の方々への質問が届いています。

視聴者:ECサイトは海外進出していますか?

越智:結論から言うと、現時点のナノ・ユニバースではほぼやっていないです。ZOZOが中国に出店されていますし、Amazonを通じてアメリカでも見れるので、厳密に言えば全くやっていない訳ではないですが、直営ECサイトは海外に向けてはいないですね。2016年頃に一度台湾へも配送できる仕組みをつくっていたのですが、現在はクローズしています。

3〜4年前に業界内で越境ECがちょっとしたブームになっていましたが、その多くは撤退・縮小しています。当たり前ですが、現地での認知拡散やマーケティングをやっていない限り、ただ配送できるだけでは売れないんですよね。その失敗を踏まえて、ブランドイメージを広めるために店舗を出店したり、現地のSNSを活用したりと、各企業がもう一回海外でのEC展開の方法を考えているというのが現在の傾向だと思っています。

川添:メガネスーパーも同じです。転送はできますが、積極的に仕掛けてる訳ではないですね。

林:AOKIは多言語対応をはじめています。もともとオリンピックにあわせて海外へ転送する仕組みなどを整備していました。新型コロナウイルスの影響ですこし厳しい見込みではありますが、世界に向けて発信していければと思います。

──越境EC施策が成功している企業を教えてください。また、それらの企業にはどのような特徴があるのでしょうか?

川添:「UNIQLO(ユニクロ)」や「無印良品」などが代表例です。また、「FR2」の株式会社せーのもInstagram経由の売上がとても高いため、成功している企業として挙げられると思います。

越智:成功している企業・ブランドはECからスタートさせていないという特徴があります。現地での認知獲得やマーケティングをしっかりやった上でECも用意すると、需要さえあればやり方はどうとでもいけます。そこが戦略化されている企業・ブランドはうまくいっているのかなと。逆に、どんなに優秀なUIデザインのECサイトを用意できたとしても、その部分がうまくいっていないとびっくりするほど売れません。一度経験しているので、身に染みています。

質疑応答2:店舗とECのバランスに正解はない?

視聴者:店頭とECのバランスについてお聞きしたいです。店舗の売り上げを損なうことなく、ECの売上を上げるには何が解決策だとお考えでしょうか?

越智:企業やブランドによってそのバランスは違うというのが答えだと思います。ECが売れている会社は店舗でもある程度売れると思いますし、現在は店舗もECも基本的に相乗効果を生み合うチャネル同士だと思っているので、店舗が売れていればECも売れていくと思うんですよね。

いずれにせよ売上をつくるためには、まずお客様のデータを見ることが大切です。もしかしたらネット上でたくさん情報を見てからお店に行って買っているかもしれない。もしくは、お店でずっと買っていた人が最近ECで購入するようになったかもしれない。どのチャンネルで買うかは、お客様の都合の話になるので、どちらの比重が高いからいい、悪いという話ではありません。お客様の購買傾向に応じて、比重を調整すればいいのではないでしょうか。

林:初めてスーツを購入される方には店舗で買っていただきたいと個人的には思っています。比較的高価な商品ですしお直しが必要ですので、店舗で買っていただいた方が絶対失敗は少ないと思っているんです。

2着目以降であれば、裾の長さなどもわかっているので対応できるのですが、AOKIの場合は店舗での接客サービスを求める方が多いので、客層とあわない部分もあります。ECでスーツを購入することは、今の段階だともうすこし時間がたたないと消費者の認知は得られないかもしれません。

対して、シャツやネクタイなどのパッと買いたい商品に関してはECで買っていただければと思っています。ECは商品によって向き不向きは必ずあるので、最近はECの売上目標を優先しすぎないようになりました。

越智:一番良くないのは、先に店舗とECの比率目標だけを立ててしまって、無理やりその目標にあわせようと戦略を組むことです。EC目標を達成するためにクーポンやセールをやりすぎてしまうという本末転倒な話をよく聞きます。

ナノ・ユニバースではこれまで、EC売上比率などを目標にしたことはありません。店舗とECそれぞれに適した商品はあるので、最適な比率はそれぞれの企業・ブランドごとに考える必要はあると思います。

例えば、メガネスーパーのサイトを見ると、ページのトップの重要な位置に「前回と同じ商品を購入」というボタンが配置されていますよね。ECサイトの担当者は、そのような商品特性や企業・ブランドの戦略を加味してECサイトを制作します。EC担当者はなにを指標として設定するかを考える必要があると思います。

川添:お客さんは買った後のイメージが具体化できないものや買った後に不具合が生じるかもしれないと一瞬でも不安を覚えるものは、ECでは絶対に買えません。スーツの場合はサイズがあっているのか、眼鏡の場合は度数があっているのか。少しでも頭をよぎると買えないですよね。

もちろんその不安を押し切ってでも、安いから買ってみようとなることもあり得ますが、メガネスーパーの場合は高価な眼鏡も多く、検査サービスを充実させているのでECで買えるかと言うと、なかなかハードルが高い部分があります。

この領域でいろいろやってきましたが、価格を下げたり、試着サービスやったりしても残念ながら売れません。なので時代に追いつくまでは、メガネスーパーではお店に行く方が便利になる手段をつくり出すようにしていますね。


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秋吉成紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

ライター・編集者。1994年東京都出身。2018年1月から2020年5月までファッション業界紙にて、研究者インタビューやファッション関連書籍紹介記事などを執筆。2020年5月から2023年6月まで、ファッション・アパレル業界特化型求人プラットフォーム「READY TO FASHION」のオウンドメディア「READY TO FASHION MAG」「READY TO FASHION FOR JINJI」の編集チームに参加。傍ら、様々なファッション・アパレル関連メディアを中心にフリーランスライターとして活動中。