ファッションをテーマに活動している若者のリアルや、同世代へのメッセージを届ける連載企画「若者VOICE」。第10回目となる今回は、アートや社会政治、自分たちの日常を様々な方法で表現するアートトリオ「POTECHI(ポテチ)」に彼らの活動を通して見る、現代の自己表現や情報発信の在り方への思いを聞いた。

 

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profile:

POTECHI(ポテチ)。現在東洋大学を休学中の吉田拓巳(@takumi_potechi)、韓国出身で武蔵野美術大学に通う鄭貴燮(@chige_potechi)、慶應生の瀬田龍(@setaryu_potechi)の1996年生まれの3人で構成されるアートトリオ。小学校からの仲とアートで繋がった同い年3人が、自分たちらしさや楽しさ、友達の繋がりを緩く表現する活動を2015年よりスタート。

official Instagram:@potechinet

 

(粋場での展示風景)

 

ー粋場での絵の製作や展示、ポテチTシャツ、映画つむぐもののオフィシャルTシャツ製作などアート的なものから、社会政治活動まで幅広く活動していますね。活動や表現の主軸としているところは何なのでしょうか?

吉田:正直主な活動とかってものはありません。大前提として言いたいのは、俺たちはアーティストと言えるような大それたことを継続してやってきていないということ。でもそこが俺たちらしいところでもあるんです。テーマとしてあるのは”ゆとり世代の表現者”になろうぜということ。若者の代表者とか尾崎豊みたいなテンションになりたいわけではなくて、3人ともゆとり世代として割といい家庭に生まれてきて、貧乏ではない生活の中で超楽しく緩くいい感じに生きてきました。そういうのを俺たちらしく表現できたらいいなという感じで、作品と言えるかは分からないけれど表現しています。

鄭貴燮:東京に住む生ぬるさという感じはあるよね。

吉田:そう。コンセプトはないし、三人ともイケイケじゃないし、ファッションメディアのスナップにでるようなオシャレでもない。むしろめちゃくちゃフレンドリーだし。1996年に生まれた人間らしいとは言えますね。俺たちがやりたいことを俺たちぽく発信しようぜという感じ。へなちょこクールというのがモチベーションです。

 

              (映画つむぐものオフィシャルTデザイン)

 

ー日々の生活において友達との繋がりを大事にしているそうですが、具体的に友達との繋がりが活動になにかしらの派生を生むことはあるのでしょうか?

吉田:友達というところでは、色々な友達が色んな友達を呼んでくれるし、それで色んなカルチャーも入ってくる。染物をやっている友達と繋がってポテチロゴを染物Tシャツの上に乗っけたり、サウンドトラックを作っている友達と曲作ったり。

 

ー舛添前都知事が政治資金を美術品購入に使った事件の際にポテチは「舛添都知事、僕たちの絵を買ってください」という記者会見をしていましたね。これは実際に東京新聞さんにも掲載されたというのを聞きました。吉田さんがフランス大統領選の調査に行ったことも含め、社会的ないし政治的意味合いを活動に感じることがあるのですが、活動において意識しているところなのでしょうか?

吉田:社会性に関しては、舛添さんのときは、「Chim↑Pom(以下:チンポム)」というアーティストが歌舞伎町で展示をやっていて。チンポムとまわりの人が現代アートは「その時その瞬間にだれがやったのかが重要だ」ということを言っていました。そこで舛添さんのことがあったから俺たちも乗っかろうということで。俺たちの活動や作品は後から意味着けをすることが多いのですが、この時はしっかり準備をして、プレスリリースもして、東京新聞にも載せてもらえるくらいでした。

鄭貴燮:それもそうだし、社会的なものをやれば注目が集まるというのが大きいです。俺たちは政治には興味があるけど、それをメインにしたいというアーティストではない。政治的なものをやれば気にしてもらえるし、乗っかってみたという感じですね。

瀬田:僕とたく(吉田拓巳)は高校生の時から別々で政治的な活動をしていて。僕で言ったら、18歳選挙権を実現しようということで署名を集めたりしました。そこでできたコミュニティが今もあって、そのおかげでfacebookを見るだけで政治情報が入ってくる。人間関係からカルチャーが生まれるってそういうところかもしれないですね。ファッションでもそうだけど、Instagramやfacebookで誰かがやっていることや気になっていることを見て、自分たちもそこから気になるものをピックアップできる。そういう意味では誰かだったり、何かに乗っかることが多いポテチはやっぱり現代っぽいのかもしれない。

鄭貴燮:周りにいろいろなことをやっている人が多いからね、感謝感謝!笑

 

ー3人とも大学3年生ということで、周りは徐々に就活ムードが漂い始めている頃ですが、なにか感じることはありますか?

鄭貴燮:なにも考えていないですね(笑)周りのみんなもまだ何もしてないし。

瀬田:明日ポテチの活動をやっていて月二十万はいりますってことはないから何かお金になることをやらなきゃいけない。僕はグラフィックデザインとか広告とか、少人数で尖ったことやっているところに入れたらなて思っている。でもそのための就活とかは全くしてないです。

吉田:俺は現在休学中で、短期インターンではなく、どちらかと言うとバイトに近い長期インターンをやってきた。一昨日もちょうど広告系の子会社でのインターンが決まって。そこは映像撮ったり、SNSの運用などをできるから楽しみです。就活に関しては特にこれをやりたいっていうのはまだないけれど、一回大企業に入ってみたいっていうのはある。大きいものに巻かれて社会を知ってみたいという気持ちはあります。

 

 

ーそれぞれが社会人として外に出るという可能性もあるということですね。ではポテチというグループとしては今後どのようにしていくのでしょうか?

吉田:俺は卒業してすぐ働くことはないと思う。二年くらいふらふらしたい、でそれを傍から見ていたら二人もそうしたいって思い始めると思う。俺なんて、すでに五年生確定だし。とりあえずノリとバイブスだね。

鄭貴燮:(笑)。でも現実的な話、働きながらポテチでも何かするっていう形じゃないと無理。どうせ働くなら、広告系とか映像系とか入りつつ、こっちでも活動すると思う。そっちの方がタメになるし。

吉田:でも俺は現実的な話になると、フランスから帰ってきてからのこの三週間はヒッピーみたいな生活している。それでここ最近暇だったのもあって、たまたま外国人観光客とよく遊んでいたんです。その彼らに「お前みたいなティーンネイジャーなんて世界規模で見ればどれだけでもいる。それは20歳でやっててもおかしくない」って言われて。実際に今回ロンドン行った時も俺みたいなやつが五万といた。そこで俺のこの生き方はとても自然的なものなんだな、と感じました。やりたいことだけはちゃんとやれ、と言われて育ってきたから、自然とこういう生き方になるのかも。

鄭貴燮:短期的な目標は有名になるってところだよね。

瀬田:僕たちがやっているのは物事に対する執着ではなく、例えばいい映像や絵を描くとか現代美術家として成功するかとか、そういう分かりやすい目標のために活動してるわけじゃないんです。その時々のやりたいことをやっていくだけ。活動の先にあるものが何かわからないけどその先を目標に置くしかない。一本道でやっていくチームではないから。やりたいことをやって有名になり、発信力を持つことができれば、それが1番気持ち良くなれる形だと思います。

 

 

ー3人ともポテチとしても個人としても自分の個性や思ったことをそのまま表現、発信していますね。最近はユーチューバーを始めようとしているということも聞きました。一方で現在の日本は、自己表現をしない若者や、就活における安定志向タイプが多かったりします。所謂就活の年を迎えた今、表現者として同世代の若者に感じることはありますか?

瀬田:僕は安定志向ってのは一番バカだと思います。20年前と今は時代が変わって、この間に失われた職業が既にある。意識高い系の人が全員言ってることを僕が二番煎じで言っているだけなのですが、今後の20年も色んな変化がきっとあって、今安定志向の人が望む職業もそぎ落とされていくかもしれない。何がそぎ落とされていくかというと楽しくないこと。楽しいことは絶対消えないから。だから安定志向は本当に安定志向なのかなって思うんです。安定志向というのは危ない言葉で、日本人はみんながやっていること=安定だと思ってしまう。もうちょっと若い世代はそのあたりを考えるべきだと思います。

吉田:ポテチを始めたときは、なにか表現しようとして始めたというよりかは目立ちたいから始めようっていうテンションでした。そのテンションは今でもあるけれど、最近のモチベーションの根底にあるのはやりたいことを俺たちらしく伝えようということ。やりたいことやるのってストレスフリーだし。けど同世代が俺のインスタとかを見ると、こいつら、いいなって思う反面こいつら将来どうするんだろうって感じると思う。SNSで働きたくないって豪語したり、どこから金出てるんだろうって思われる生活をしていたり、一日寝てるだけの写真を投稿しているので、これは休学までしてすることなの?って思う人もいると思う。でも、ただ気持ちがいいことや楽しいことをやってるだけなんです。これが自分の表現したいことだとも言えるし、そんな生活を歌や曲にするというのもまた表現。そうやってみんなもやりたいことを自分のやりたいようにやって発信すればいいのになと思う。これは休学してからこそ俺も言えるようになったことなのかも。ひとつ自分のやってみたいことをやってみるのはめちゃくちゃ可能性あるんじゃないかなっていうのはずっと感じてることだし、そういうのを感じたいなら色んなとこに行けば感じられると思う。

 

 

ー活動を通して学んだことは?

吉田:いいところを上げれば、あえてアーティストという肩書を名乗っていれば、面白い仲間が増えることかな。僕個人のハッピーの基準は友達だから、常に友達や知り合いから色んなカルチャーを得て自分に足していけば、人生的にもこのチーム的にも割とハッピーかなって思う。何か表現したいものをチームという形で表現して、その繋がりを何倍に増やせればもっとカルチャーが増える。アーティストって肩書をもつことは名乗り得だな、タダだし。

瀬田:ふざけたいからこそふざけを大事にして、僕たちらしい緩さも表現できたらいいね。

 

ー現に一部ではそうなりつつありますが、ポテチは今後若者のリーダーや自己表現者としての憧れ、代表のような立場になり得る可能性があるのかもしれませんね。表現をする立場として世の中に思うことはありますか?

吉田:勝手に任されちゃう分にはいいのだけど、文化を守るとか作るとかの一端を担うつもりはないです。一つの憧れとしてフィーチャーされるのはありだと思うし、東京ヒッピーみたいな感じになるのはかっこいいとは思う。でも、もしそうなってもそうなった時に世に伝えたいことは今と変わらない。やりたいことをやればいい。かっこつけてるとかじゃなくて、普通の生活を過ごすのと同じで、3人で集まるのが楽しいからこそ、やってみたいことをアクションに移すことのハードルは低くなる。それに今みんながインスタにストーリーを上げるのと俺たちがユーチューブに動画を載せるのはなんら変わりはない。あくまで活動にアーティストっていう無料の肩書を背負ってることだけが違い。という感じで担っても担わなくても僕らのマインドは変わらないかな。

瀬田:付け足すと、担うとか代表するっていうことは現代にいらないということに最近気が付きました。レペゼンなんて必要ない時代だと思うんです。僕たちは若者とかアーティストとかのレペゼンになりたくないし、自分だけをレペゼンすればいい。僕たちで言えばポテチだけをレペゼンして、それより大きい単位を代表するのは無意味。今ってすごい多種多様化じゃないですか。自分が好きなこと、やりたいことをいろんなジャンルからピックアップするみたいな。ラッパーを見ててもラッパーを代表しようとするようなラッパーは今いないんです。みんな自分の世界観を少しずつ表現していてそれがちゃんと認められているからこそ、今はジャンルとして一個のヒップホップを語るのは意味がないという感じです。今は一個人の世界観を発表してそれが評価される時代。だから大スターはもう生まれないかもしれないけど、小スターはたくさんいていいのかなって思いますね。

 

 

ー自分たちが発信することでそれに影響される人たちがいると思いますが、影響を与える立場として意識するものはありますか?

吉田:僕はインスタやfacebookに投稿する写真もカッコつけたものは上げないし、ブログも等身大に書く、という感じで発信はします。俺らしくというところでもあるんでしょうね。今はすべての人がSNSでカルチャーを発信できるし、受信できるから、俺は自分らしさや楽しいことを全力で発信します。

鄭貴燮:楽しいことを楽しそうに見せるっていうのはあるよね。絵を描くにしても、みんなにこう思われたいからという理由では書き始めない。だから発信する元の行動を行う点ではなにか考えたりはしないかもしれない。

吉田:結論どんな人も百ある景色の中の一瞬の楽しさや絶景をSNSに投稿する。そういうことができるのはSNSだけだから、投稿する時は楽しそうだなって思ってもらえることくらいしか意識しません。僕たちは好き勝手やっているからこその経験値もあるし、顔も広いし、経歴やスペックも高い。だからこそ楽しそう、羨ましいと思う学生もいるのだろうし、こっちからするとそうやって思って寄ってきてくれる人がいるからこそ僕らの経験値や認知度も更にあがる。だからこそ自分たちらしい楽しさを発信するということは意識するポイントでもあります。

 

ーありがとうございました。

 

editor’s view:ポテチの3人と今回の筆者はともに今年21歳、遂に就活の年だ。社会人になるということに漠然とした恐怖を感じる人もいる。安定の二文字が濃くなってきている人も少なくないはず。そんな今だからこそポテチのインタビュー記事を読んでほしい。カッコつけるわけでもなく、緩い等身大の自分たちを自分たちらしく活動に映し出すその姿は、若者の自己表現の軽薄化や情報発信のスタイルが問われる現代に必要な答えなのかもしれない。自分の将来を決めかねない選択を迫られている今だからこそ、SNSで誰もが気軽に自己表現できる今だからこそ、自分らしさの再認識や、本当にしたいことをする行動力が必要なのかも。それをしてみると一人一人にまた新しい個性的な自己表現が生まれ得ると思う。

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Text&Photo: S.Kamegai (READY TO FASHION MAG編集部)

READY TO FASHION MAG 編集部

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