ファッションをテーマに活動している若者のリアルや、同世代へのメッセージを届ける連載企画「若者VOICE」。第8回目となる今回は、トロント大学で天文学を学ぶ賀来さんに、宇宙に魅了されたきっかけや、宇宙×ファッションという視点を持った経緯、今後の展望について聞いた。

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【連載】「若者VOICE vol.8:トロント大学2年生」ファッションの力で宇宙をもっと身近にする
profile:賀来 ゆり恵
現在カナダ、トロント大学にて天体物理学を専攻中。今年4月に2年を終え、9月から3年生になる。来年からスタートする宇宙旅行を始めとした宇宙産業の多様化が進む現代、宇宙×ファッションに興味を抱く。自分が中高時代に読んでいたような科学誌にもっとファッション性があったら、宇宙空間で人は何を身につけるのか、など宇宙とファッションの可能性に思いをめぐらせている。

――天文学に強い大学ということでカナダのトロント大学を選ぶなどかなり宇宙に魅せられている印象ですがそもそもなぜ宇宙に興味を持ち始めたのですか?

賀来:一番最初のきっかけは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』だったと思います。今でこそ理系の勉強をしていますが、もともとは文系のタイプでよく本を読んでいたんです。すごくマニアックな話になるんですけど、『銀河鉄道の夜』のワンシーンにさそり座の一等星のアンタレスっていう赤い星がすごくきれいに輝いているというシーンがあって、それを想像した時に本当にきれいだったんです。東京生まれ東京育ちで、あまりきれいな空が見れなかったんですが、あの本をきっかけに自分で想像した夜空がとても芸術的で、初めて星空とか、空にロマンを感じました。そこから宇宙っていいなって思い始めて、中学生になる頃には「Newton(ニュートン)」や「Science(サイエンス)」といった科学雑誌を読むようになっていました。雑誌に出てきたアンドロメダ銀河が本当にきれいで、その写真を見てからさらにどっぷり浸かっていきました(笑)

(アンドロメダ銀河について熱弁する賀来さん)

――物語の世界がきっかけというのは結構意外です。そこから天文学者を目指してトロント大学へ、というのはとてもロマンがありますね。ちなみにその頃はファッションへの興味はありましたか?

賀来:宇宙と同時にファッションも好きで、渋谷の「109」にもよく通っていました。でもそれ以上に宇宙に興味があり、「ニュートン」の雑誌を片手に花柄のワンピースも買って帰るみたいな感じでした(笑)

――そうなんですね(笑)そんな風に小さい頃から宇宙が何よりの興味の対象だったかと思うのですが、そこからファッション分野に目を向けるようになったのにはどういった経緯があったのでしょう?

賀来:実際に“好きだから”ということで天文分野を専攻したんですが、将来自分が就きたい職業が、宇宙のスペシャリストではないのかもしれないと2年生の生活が始まった頃に悩んでしまいました。そうやってぐるぐる考え始めた時に、それまでは大好きな宇宙に関わる職業ばかり意識していたのを、他に得意なことや興味のあることにも目を向けてみることにしたんです。そこで、昔から人と話すのが好きだったり、文章を書くのが好きだったりしたことに思い至り、仕事の一つとしてまず最初に興味を持ったのは執筆だったんですが、そのあとに「もう一つ興味あることないかな」って考えた時に思い浮かんだのがファッションでした。

――宇宙以外のことに目を向けようと考えた時に思いついたのがファッションの分野だったんですね。ファッションのどんなところに興味を持たれたのですか?

賀来:色や形、質のコンビネーションが無限にあるところに興味を持ちました。その無限性故に理想の追求がやめられなかったり、「もっと自分の理想のファッションがあるはずだ」という探求が尽きなかったり、そういうところが好きです。それで、そういうのが何か宇宙と繋がらないかと考えたときに、ファッションの無限性と宇宙の無限性の類似点に気が付きました。

――確かにファッションって無限性があって、その意味では宇宙とすごく似ていますね。宇宙の無限性というのはどういったことでしょうか?

賀来:宇宙って遠い存在のように思われがちですが、実は来年、再来年あたりから一般の人に向けた宇宙旅行も始まりますし、既にいろんな宇宙ビジネスがどんどん始まっていて宇宙へのアプローチが多様化しているんです。宇宙への心理的な距離が近づいていく今の時代だからこそ宇宙には無限性があります。なので、その無限性とファッションの無限性を活かして何かできないかなと最近は考えています。すごく壮大でアバウトな話ですが、宇宙とファッションという2つの分野を私の得意な話すことと、そして書くことを使って、両者を繋げる新たな取り組みをしたいと思っています。

――宇宙の分野とファッションの分野を繋げたいということですが、そう思うには何かきっかけとなる出来事があったのですか?

賀来:私が「ニュートン」を読んでいた時の経験がひとつのきっかけです。当時、周りに宇宙好きの子はいても「ニュートン」を読んでいる友だちはほとんどいませんでした。書店で立ち読みしていても周りにいるのはほとんど男性です。「宇宙の大規模構造」や「ブラックホールの謎」といったようなタイトルはオタクっぽさを前面に出しているから、もともと興味のある人にしか読まれないんだと思うんです。一方でファッション雑誌ってたくさんの人に読まれるじゃないですか。それって当然のことだと思うんですよね。やっぱり宇宙の起源よりも明日何着るかってことの方が多くの人にとって身近で重要な話題なので。でも、もし科学雑誌がファッション雑誌のようにもっとおしゃれでスタイリッシュだったら、そのファッション性に興味を持った人が手にとってくれるんじゃないかと思うんです。手に取って読んでいくとそこにBGMのようにさりげなく宇宙があって、ファッションが主役なんだけどそこに当たり前に宇宙があるっていう、そういう繋げ方ができたら面白いかなって思ったんです。

――ファッションを入り口にすることで、もっとたくさんの人に宇宙の魅力を知ってほしいという思いがあるんですね。確かに宇宙って多くの人にとって疎遠かもしれません。実際に私も来年から宇宙旅行が始まるという話を知りませんでした。

賀来:来年再来年からの宇宙旅行は既に世界中で多くの人が予約しています。今でこそ2,000-3,000万円と高額ですが、将来的にはもっと手軽に宇宙旅行ができるようになるはずです。宇宙で過ごしていくことがすぐそこまで来ているんですね。だからこそ「宇宙空間で人は何を着るのか」というのはそう遠くない未来の話で、これも関心の一つです。

――宇宙×ファッションは実はかなり身近なテーマということですね。このテーマの中で今現在、具体的にはどんなことを考えているのでしょうか?

賀来:例えば、無重力空間でスカートはめくりあがりますし、イアリングとかネックレスとかも上に上がりますよね。なので、宇宙空間で人が着るものってちょっと変わってくると思うんです。でも必ず人は着るものが必要です。その時に人は宇宙で何を着ていくのかということに興味がありますし、他にも、宇宙産業が盛んになっていく中で今とは少し違う新しい職業が出てきて、そういう人たちが何を着るのか、宇宙でのファッションショーはどうやるのかなどにも関心を持っているところです。

――なるほど。そうやって考えていくと考え得ることは尽きないですね。ありがとうございました。最後に同世代の読者に向けてメッセージをお願いします。

賀来:まだ何もできていない私が言えることとしては、未完成のものを発信することに対して臆病にならないでということです。例えば、今、私が話していることもすごく未完成で何も形になっていないのですが、それでもこうやってメディアの前で話すことや、いろんな話を教えて頂くことを通じて、何かリアクションをもらうことで、ちょっとずつ形作られていったりします。自信作じゃないものを発信するって不安だったり、批判されるのが怖かったりするけれど、それでも自分はこういう考えを持っているって言っていくことが重要だと考えています。

――ありがとうございました。

text:M.Hosoi(READY TO FASHION MAG 編集部)

READY TO FASHION MAG 編集部

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