エッセイ・ファッションブック編

2020年上半期に出版されたファッション・アパレルにまつわる新刊60冊を、「ビジネス編」「エッセイ・ファッションブック編」「批評・研究編」「テキスタイル編」「着物編」の5つのテーマに分けて紹介する。

本記事では「エッセイ・ファッションブック編」と題して、16冊の新刊をピックアップ。

販売サイトのリンクも掲載しているので、気になる本があればぜひ購入して読んでみてほしい。

「カール・ラガーフェルドのことば」

「カール・ラガーフェルドのことば」

(カール・ラガーフェルド、中野勉・訳、河出書房新社、2400円)

「はかないものをわたしは愛する.モードはわたしの職業だ.」(P.27)。昨年2月にこの世を去った“モード界の皇帝”カール・ラガーフェルド氏の名言集。モードやデザイン、シャネルや自身の人生について語った金言が並ぶ。フレーズにあわせてレイアウトされた独特なイラストが印象的。ピリっとした言い回しのなかに、ユーモアと知性を感じる。

【販売サイト】
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309207926/

「村上T 僕の愛したTシャツたち」

「村上T 僕の愛したTシャツたち」

(村上春樹、マガジンハウス、1800円)

小説家・村上春樹が、“つい集まってしまった”Tシャツコレクションを語る。「POPEYE」連載のエッセイを1冊にまとめ、巻末には野村訓市による新規インタビューを収録した。「夏はサーフィン」「レコード屋は楽しい」「冷えたビールのことをつい考えてしまう」など、全108枚のTシャツとともに18のエピソードが綴られる。力の抜けた軽妙な文体が心地いい。

【購入サイト】
https://magazineworld.jp/books/paper/3107/

「古着は、対話する。」

「古着は、対話する。」

(安田美仁子、ギャンビット、2000円)

「着るだけで行動が変わりそうでしょ?」。ファッション好きのあいだでカルト的な人気を誇る突撃洋服店。その創業者でディレクターを務める古着表現作家・安田美仁子が古着を、ファッションを、そして人の生き方を語る。力強くもあたたかい言葉と並ぶ突撃洋服店セレクトの古着は、全てアヴァンギャルドでエネルギッシュ。その言葉一つ一つ、古着一つ一つから、服を着ることの面白さに気づかされる。

【販売サイト】
https://www.gambit-ent.com/publication/book/2020031525/

「The three WELL DRESSERS 白井俊夫・鈴木晴生・鴨志田康人──3人の着こなし巧者の軌跡──」

「The three WELL DRESSERS 白井俊夫・鈴木晴生・鴨志田康人──3人の着こなし巧者の軌跡──」

(倉野路凡、万来舎、3400円)

メンズファッション界の重鎮である白井俊夫・信濃屋顧問、鈴木晴生・シップス顧問兼クリエイティブアドバイザー、鴨志田康人・オフィスカモシタ代表取締役社長/ポールスチュアートジャパン クリエイティブディレクターの3人にフォーカスを当て、戦後メンズファッションの歩みを振り返る。それぞれ10歳違いの3人のインタビューからは、メンズトラッドスタイルの系譜が浮かび上がってくる。終章では日本にアイビールックを根付かせた伝説的ブランド「VAN(ヴァン)」との関わりから、服へのこだわりまでを語りあった鼎談を収録。三者三様のスタイルが映える撮り下ろしのスナップに男の色気が香り立つ。

【販売サイト】
http://banraisha.co.jp/fashion/1173/

「着るもののきほん 100 Life Wear Story 100」

「着るもののきほん 100 Life Wear Story 100」

(松浦弥太郎、小学館、1500円)

エッセイスト・松浦弥太郎による「UNIQLO(ユニクロ)」公式サイトでの連載小説を書籍化。1人の青年の成長を描いた100話の物語を、「UNIQLO」のアイテムと紐付けながら描いていく。服とともにある生活の描写から、ていねいな暮らしの豊かさが伝わってくる。各話ごとに関連するアイテムを個別に紹介。巻末にはそれぞれの商品の詳細も記載した。自分らしい服と暮らしのありかたを考えるきっかけに。

【購入サイト】
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388729

「おしゃ修行」

「おしゃ修行」

(辛酸なめ子、双葉社、590円)

漫画家・コラムニストの辛酸なめ子が、“おしゃれピープル”への憧れとコンプレックスをそのままに書いたエッセイ集。セールで買いすぎたことによる罪悪感を紛らわす方法、フリーマーケットでのお客さんとの攻防、おしゃれタウンに気負けしないための攻略法などなど、スピリチュアルな視点を交えつつ書かれたユーモラスな文章が読む人の共感を誘う。同名書の文庫版となる本書では、「服を買うなら、捨てなさい」(宝島社、2015年、1200円)などで知られるスタイリストの地曳いく子との対談を追加で掲載した。

【販売サイト】
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-71485-2.html

「着せる女」

「着せる女」

(内澤旬子、本の雑誌社、1615円)

「ふおおお、なんじゃその豹変ぶりは!!!!」(P.179)。もったいない男たちにスーツを着せまくるお買い物同伴エッセイ。服装に無頓着な出版業界関係の知人友人をスーツソムリエが見繕った一着で劇的に大改造していく。著者のユニークな言い回しがとにかく小気味よく愉快。端々にスーツ豆知識や着こなしのアドバイスが散りばめられているためスタイリングの参考にもなるのでは。冒頭には企画参加者のビフォーアフターショットを掲載。自信溢れるその表情にスーツの力を思い知る。

【販売サイト】
http://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114396.html

「エレンの日記」

「エレンの日記」

(エレン・フライス、 林央子・訳、アダチプレス、2400円)

1990年代のユースカルチャーを盛り上げた伝説的インディペンデントマガジン「Purple」。その創刊編集長エレン・フライスが、ファッションやアート、カルチャーに対する考え方、旅の記憶、恋人との関係など、その瞬間ごとの感情を包み隠さず記した。著者自身による写真作品がその情景をより鮮明に映し出す。2001〜2005年にかけて「流行通信」で連載していた「Elein’s Diary」38篇をまとめたもので、翻訳は著者の長年の友人である編集者・林央子が担当。林によるイントロダクションからは、「Purple」の意義や著者の人柄が見えてくる。

【販売サイト】
https://adachipress.jp/elein/

「冨永愛 美の法則」

「冨永愛 美の法則」

(冨永愛、ダイヤモンド社、1500円)

アジアを代表するトップモデル・冨永愛が自身の美の哲学を公開する。ファッション業界の最前線から得た美への意識を語りながら、メイクやボディケア、トレーニングから食事など、日常生活のさまざまな場面で具体的に意識していることやその方法を細かに記した。本書冒頭には、撮り下ろしのポートレートを掲載。自分らしい美しさを追及してきた努力と自負が映る。「結局は、自分のいいところを知って伸ばすことが、美しさへの第一歩なのだ」(P.33)。

【販売サイト】
https://www.diamond.co.jp/book/9784478109793.html

「明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?」

「明日はもっと面白くなるかもしれないじゃない?」

(我妻マリ、幻冬舎、1500円)

「ファッションに関しても生き方にしても、『自分はこれが好き』『私はこれを身につけるんだ』という気持ちがある人は、綺麗に見えると思うんですよね。」(P.63)。日本モデル界のレジェンド・我妻マリの言葉には、前向きに生きていくヒントが詰まっている。モデルの経験で得た学び、60歳からの田舎暮らし、歳を重ねて変わったこととかわらないこと…パッションに満ちた気高いありかたに、人生を生き尽くすための元気をもらえるエッセイ集。

【販売サイト】
https://www.gentosha.co.jp/book/b12944.html

「高峰秀子 おしゃれの流儀」

「高峰秀子 おしゃれの流儀」

(高峰秀子・斎藤明美、筑摩書房、1800円)

昭和を代表する名優・高峰秀子氏が、おしゃれについて書いたエッセイを、高峰氏の養女で作家の斎藤明美によるテキストとともにまとめた。ありし日の肖像に加え、ワンピースや着物、ドレス、靴、手袋など愛用品の撮り下ろし写真を多数掲載。「これなら自分に似合う、自分に合った色だと信じたものには何処までも頑固である、という事、自信を持って着ていられるものが、一番安心していられる、安心して着られるものがやはり一番自分にしっくりぴったり似合っている筈だと思うのです。」(P.137)。写真から、言葉から、高峰氏の強いこだわりが感じられる。

【販売サイト】
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480879103/

「’80sガールズファッションブック」

「’80sガールズファッションブック」

(竹村真奈・編著、グラフィック社、2000円)

ニューウェーブ、DCブランド、オリーブ少女…若者のエネルギーに満ちていた80年代。そんな当時を駆け抜けた“女の子ファッション”をこれでもかと詰め込んだ。その瞬間瞬間を生きられたファッションのありあまるエネルギーに圧倒される。ビジュアル・アーカイブのほかにも、長谷川義太郎・文化屋雑貨店オーナーや中野裕通・「hiromichinakano(ヒロミチナカノ)」「VIVA YOU(ビバユー)」デザイナー、三浦静加・セーラーズ オーナー兼デザイナーら当時のキーマンへのインタビューや、チェッカーズ男子やタレントショップなどを紹介するコラム、80年代トレンド年表なども掲載する。

【販売サイト】
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=40561

「かわいい! 少女マンガ・ファッションブック 昭和少女にモードを教えた4人の作家」

「かわいい! 少女マンガ・ファッションブック 昭和少女にモードを教えた4人の作家」

(倉持佳代子・図書の家{小西優里・岸田志野・卯月もよ}・編、立東舎、2000円)

昭和30〜40年代に描かれたファッションイラスト300点超を収録したイラストブック。当時の少女たちを魅了したファッションイラストの可愛らしさはいまなお色褪せない。牧美也子、わたなべまさこ、北島洋子、谷ゆき子ら4人の作家のインタビューやコラム、本書を編集した少女マンガ専門家・倉持佳代子と筒井直子・京都服飾文化研究財団(KCI)キュレーターによる対談などテキストも充実。巻末には、当時の少女マンガ誌へのオマージュとして着せ替え人形カードを付録した。隅々に深い少女マンガ愛を感じる。

【販売サイト】
http://rittorsha.jp/items/18317423.html

「リアルクローズ イラストレーション ファッションを魅力的に描くクリエイターズファイル」

「リアルクローズ イラストレーション ファッションを魅力的に描くクリエイターズファイル」

(パイ インターナショナル・編著、パイ インターナショナル、2000円)

40人のクリエイターが描く個性あふれるファッションイラストをまとめたクリエイターファイル。バリエーション豊かな作風・色づかい・コーディネート・キャラクターが、読む人を飽きさせない。ブックデザインは、クリエイティブチーム・BALCOLONY.が担当。イラストの魅力をより引き立てている。巻末掲載のプロフィール一覧には使用したツールなども細かく書かれているため、イラストづくりの参考にも使えるのでは。本書には、各クリエイターのSNSアカウントにリンクしたInstagramのネームタグとTwitterのQRコードも記載されている。気になるクリエイターがいればぜひフォローしてみてほしい。

【販売サイト】
https://pie.co.jp/book/i/5299/
https://pie.co.jp/book/i/305299/(電子版)

「シンプルなクローゼットが地球を救う──ファッション革命実践ガイド」

「シンプルなクローゼットが地球を救う──ファッション革命実践ガイド」

(エリザベス・L・クライン、加藤輝美・訳、春秋社、1800円)

“サステイナブル”や“エシカル”が謳われるいま、自室に溢れる服を見て憂鬱になる人も少なくないはず。そんな人に手を差し伸べるのがこの指南書。「ファストファッション クローゼットの中の憂鬱」(鈴木素子・訳、春秋社、2014年、2200円)を著したジャーナリストが、服の手放し方から買い方、洗濯・修繕の方法、注目すべき社会運動・団体やサステイナブル/エシカル・ファッションに関する情報を発信するおすすめSNSアカウントまで事細かくアドバイス。クローゼットの中から起こせる最小の社会運動、この本をきっかけにチャレンジしてみては。

【販売サイト】
https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393333761.html

「ユニバーサルファッション おしゃれは心と身体のビタミン剤」

「ユニバーサルファッション おしゃれは心と身体のビタミン剤」

(見寺貞子・笹﨑綾野、繊研新聞社、2700円)

年齢や性別、体型、身体の機能や障害に関わらず、全ての人が生き生きと暮らせるためにあるユニバーサルファッション。そんなユニバーサルファッションの現在地を、社会的意識の変遷やあらゆる状況に応じた具体的な衣服設計手法、企業や地域自治体による取り組み、デザインの可能性など幅広い論点から事細かに記した。ここ数年、少しづつではあるが、ファッション・アパレル業界でもダイバーシティ(多様性)への理解が進みつつある。すべての人がファッションを楽しめる世界を実現するために、この本とともにあらためて考えてみてほしい。

【販売サイト】
https://www.amazon.co.jp/dp/4881243365/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_MZXrFbA7FX3AF

【ファッション本2020年上半期新刊まとめ関連記事】

現場の仕事を通して得られる経験はもちろん重要だが、ファッション・アパレル領域のビジネスや文化に関する知識もそれと同等に欠かすべきではない。知識に基づいた経験と経験に裏付けられた知識の両方を併せ持つことが、ファッション・アパレル業界で働く上では大切だ。

知識を蓄えるために、そして自身の経験をより豊かなものにするため、以下の関連記事もあわせて読んでみてほしい。


秋吉成紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

ライター・編集者。1994年東京都出身。2018年1月から2020年5月までファッション業界紙にて、研究者インタビューやファッション関連書籍紹介記事などを執筆。2020年5月から2023年6月まで、ファッション・アパレル業界特化型求人プラットフォーム「READY TO FASHION」のオウンドメディア「READY TO FASHION MAG」「READY TO FASHION FOR JINJI」の編集チームに参加。傍ら、様々なファッション・アパレル関連メディアを中心にフリーランスライターとして活動中。