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早稲田大学繊維研究会は1949年に創立された日本で一番長い歴史を持つファッションサークルである。

 

その長い歴史の中には、有名なファッションデザイナーをも輩出しており『ケイスケカンダ』デザイナー 神田恵介やパリコレにもコレクションを発表している『アンリアレイジ』デザイナー 森永邦彦、『TOKYO RIPPER』デザイナー 佐藤秀明、『ka na ta』デザイナー 加藤哲郎もその一人。また服飾関係だけでなく、卒業生の多くは広告やプロダクトデザインなど枠にとらわれず幅広く活動している。

現在は、早稲田大学の学生を中心に 他総合大学や美術大学、服飾専門学校に通う学生が所属。それぞれの個性を活かしながら12月に開催されるショーの準備に取り掛かっている。

 

年々と服飾業界を目指す若者が減っていることが嘆かれている今、学生だけで”1”からショーを作り上げていく彼らのファッションに対する考え方、そしてファッション業界における繊維研究会の役割は何なのだろうか?

 

低迷しているこの業界にこの団体がもたらすもの、彼らを通して見えてくる業界のこれからについて、繊維研究会の協力のもと考えていきたい。

 

今回、READY TO FASHIONでは12月11日に東京・寺田倉庫にてfashion show「いま・ここ」を開催する彼らに密着し、ショーを造り出す過程や、伝えたい思いを取材。その声を形にする為、繊維研究会・代表 天田みのりさんのインタビューをはじめ、そのショーの主役である服を作り上げる2人のデザイナー兼パタンナーにも密着取材をし、このショーにかける思いや彼らの考えるファッションについてを伺ってきた。さらに、10月下旬 実際に繊維研究会の会議にお邪魔し、ショーの構成や発表するコレクションについてを念入りに打ち合わせをする彼らに注目。インタビューの中でも語られた「ショーを個人発表会ではなく、それぞれの良いところを活かしながらも一つのコレクションとして成立させたい」という思いが強く感じられたその会議の様子もこの記事の後半で紹介する。”全員で話しあい、試行錯誤する”。当たり前にも聞こえるその作業がどれだけ難しく、大変な事かは彼ら自身が1番知っているはずなのに、その作業をとても大切にする理由は何か?そして、彼らはなぜファッションショーをするのか?今回の取材でその理由を知ることができた。

 

まずは、代表である天田さんのインタビューから。国内トップファッションサークルを引率する彼女から、今回のショーのテーマを語って貰う。さらに彼女の考える服飾業界における繊維研究会の役割や、彼女自身が繊維研究会に入ったきっかけなど、様々なお話を伺ってきた。


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・Interview・

早稲田大学繊維研究会・代表 天田みのり

1.今回のショーのテーマ、コンセプトを教えてください

今回は、「メディアによるイメージの差異について」というテーマでショーの製作に取り組んでいて、私達と衣服の持つイメージ、そしてそれらを繋ぐメディアという関係性に目を向けています。

私達が常日頃、意識的に目にしているものは、様々な情報伝達手段によってもたらされているものです。複数のメディアは衣服の異なる側面を時間の経過のなかで照らし出しながら、わたしたちと衣服は関係をととり結び、またそれを変化させていきます。  ファッションに内在する「メディア」、「時間差」、そしてそれらが私たちの衣服に対するイメージを変質し得るということ。これらのことを問題化すると共に、ファッションショーという一回性の場を再考します。

 

2.では、そのテーマやコンセプトをどのようにコレクションや演出で表現しようとしていますか?

今回のショーでは、タイトルの「いま・ここ」にもあるように時間と空間という2つの軸が重要になっています。なぜなら、その2つの要素によって、今回「いま・ここ」で提示する様々なメディアによるイメージの差異が浮き彫りになると考えているからです。

ですので、今回服造には時間軸を持った衣服の製作、そして演出では衣服の持つ時間軸を操作する事の出来る演出案を考えています。

そして、これらを提示する事が出来るのが、メディアと私達のそれぞれの持つ時間差が無くなる“ファッションショー”という一回性の空間です。例えば、メディアに内在している時間というものと、私たちが普段生活をしている時間が一致する(時間差がなくなる)っていうのが実際にメディアを体感できるファッションショーだと思うんですね。そこで私たちがその空間を提示することが「いま・ここ」の目的になるかなと、少し主観も入りますがそう考えています。

具体例だとメディアと言っても写真だったり、映像だったり、インスタレーション、ファッションショー多岐に渡り、それぞれに特徴があります。写真だと一瞬の時間しか切り取ることが出来ないけれど、映像だと継続した時間を切り取ることが出来る。でも、2つともそれぞれ差はあるものの過去の記憶を今見ることが出来るということで共通していると思うんです。そういう、同じ時間軸を持った服も違う特徴を持ったメディアっていうもので提示することでやっと違いがわかるということを気づかせることが出来るような演出を考えています。

また、今年の年間コンセプトが「ファッションとの関係性を再帰的に問う」なのですが、今回ファッションショーというものと、私たちが常に当たり前だと思っている関係性を一回崩して、崩した状態で提示することで本来正しいと思っていたものを考え直すことが出来るのではないかと思っていて。普通ランウェイがあって、私たちがそれを取り囲んでファッションショーを見るじゃないですか。でも、それを私たちが座っている周りをモデルさんが回るとか、私たちが同じものを見えない環境を作り出せないかなと思って。つまり、行動や行為自体をデザインしようと考えているんです。普段、ハンドアウトはお客さん全員に同じものを配布して、座席もお客さん全員が同じものが見える環境を用意するじゃないですか。しかし今回、その真逆のことをしています。お客さんに配るハンドアウトも様々なものがあって、何を貰うかわからないんです。なので、友達と一緒に行ってもそれぞれが持っているハンドアウトが違って、与えられている情報も違う。そういった環境を作り出した上で座っている場所によって見えるものも全く違うんですね。場所によっては映像が確認できないかもしれないし、見ることができないモデルさんもいるかもしれない。本来であれば、それってデメリットだと思うんですよ(笑)、見ることが出来ないモデルさんがいたり、せっかく作った服を見せることが出来なかったり。でも、あえてその環境を作ることによって普段私たちが当たり前だと思っている事に問題提起が出来るんじゃないかと思っていて、そういった空間作りを心がけています。

 

3.代表である天田さんが繊維研究会に入ろうと思ったきっかけは何でしょうか?

私は当初繊維研究会に入るつもりが実はなく、ファッション系の出版団体に入るつもりでした。 しかし、その団体の事を知っていくうちに 組織としてあまり円滑に運営されていない印象を受け、少し違和感を覚えました。

正直、ファッションショーにはあまり興味がなかったのですが繊維研究会の独特な雰囲気、そして環境に惹かれてここに入ろうと決めました。 何をするかというより、この人達と一緒に活動をしたい!と強く思えたからです。

実際に活動をしてみると 本当に、この団体にはある分野に特化した人達が多くて。

そのおかげで、ファッションが好きな人はもちろん、映画や演劇、建築や文学など様々な分野に興味範囲が広がっています。

今思うと、あの時 繊維研究会を選ぶ事が出来て本当に良かったです。

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4.ファッションに興味を持つかっかけになった出来事、ブランドがあったら教えてください。

出来事というよりは、幼少期からとにかく”洋服に触れてきたな”と思います。

祖母が洋裁学校に通っていたこともあり、母も私もとにかくファッションが好きで。小さい頃から着せ替え人形のように、色々な洋服を着せてもらっていました。

ファッションを純粋に好きという気持ちだけでなく、もっと色々知った上で着たいと思えるようになったのは、お恥ずかしながら繊維に入ってからです。繊維に入る前までは「ただファッションが好きで服を着ることの何が悪い!」と思っていましたし、実は今もそう思っています。ですが、繊維で扱うファッションの面白さを知ってからは、とにかく必死に本を読み、様々な人の話を聞くよう努めています。何事においても、ちゃんと知る事はそれを扱う強みになると思うので。

そして、好きなブランドというか、好きな人はリトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)のデザイナー山縣良和さんです。

ずっと公言しているので、そろそろ恥ずかしがらずにご挨拶の一つでも出来ればいいなと思っています。

 

 5.天田さんが考える服飾業界全体としての学生服飾サークル、そして繊維研究会の役割は何だと思いますか?

 まず繊維研究会では、「総合大学生が世の中に対し、どの様な考えを発信し影響を与える事が出来るのか」という活動理念を掲げていて、”総合大学生という立場だから出来る事”というのをとても大事にしています。その上で、ここ数年は学術的な側面をベースに活動を行っています。

いわゆるブランドと同じように、”モードを意識した衣服を造り、ファッションショーを行う”事ももちろん出来ますが、正直”服造り”という面だけ抜き出せば専門学生などに勝る事は難しいと思います。

だとしたら、私達に出来る事は高次的な視点を持った活動で、そういったファッションの提示を用いた問題提起だと思うんです。

もちろんこういった活動は、意図が受取り手に伝わらない事が少なくないと思います。ただ、こういった事ってよくある事じゃないですか。でもファッションというフィールドでは近年あまり起きてないと思うんですよね。それは高次的な視点を持った活動をされている方が少ないからだと思います。

そのような人口が少ないフィールドで、活動を続けていく事が私達の目的であり、繊維研究会の役割だと考えています。 

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6.若者離れが囁かれるファッション業界にとって、現在そして未来で繊維研究会はどのような存在でありたいと考えていますか?

実は繊維研究会の部員は、服飾業界に進む人があまり多くなくて。もちろん0ではないですが、近年の卒業生は、映像系や広告、メーカー等それぞれの色を活かし様々な分野で活動しています。

そういった結果になっている大きな理由の一つは、繊維研究会で扱っているファッションと、服飾業界で主流となっている所謂ファッションの毛色が違う為だと考えています。

学生ではなく、社会人としてファッションに触れていく以上その行為が表層部分で完結してしまうのは良くも悪くも当たり前の事で。そうなってしまうなら、ファッションを選ぶ必要が無くなってしまうのではないでしょうか。

この事を踏まえた上でこれからのこの団体のことを考えるならば、数年前からファッションが批評の対象にもなりうる流れがあるわけで、その渦中にいるべき意味のある活動を続けてほしいです。続ける事が、なによりも重要だと思うので。

そして学生という立場を活用し、服飾業界に一石を投じる存在であって欲しいと考えています。 

 

 7.最後に天田さんにとって最後のショーとなる「いま・ここ」への意気込みをお願いします。 

今年は良い意味で”今後、繊維研究会で活動していく後輩達にプレッシャーを与える事が出来る年”に出来ればいいなと思っていて。笑 とても本気だし、強気です!

活動理念の見直しも行い、フライヤーで学内ジャックも行い、こういったインタビューでも積極的にコンセプトについて話しています。やはり伝えないと意味がないので。

今年は単に綺麗なだけでなく、内容の充実した、面白いと思って頂けるショーをお見せする事が出来ると思います。是非会場まで足を運んでください、お待ちしています。

 


”今後、繊維研究会で活動していく後輩達にプレッシャーを与える事が出来る年”

と今回のショーへの自信をうかがわせた天田さん。一体その自信の根源は一体どこにあるのだろうか。その根源を探るために訪れたのは繊維研究会の城「早稲田大学戸山キャンパス 学生会館7F」繊維研究会の会議室だ。

 

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繊維研究会の学生はそれぞれの得意分野を生かす為、各部門に分かれて活動を行っている。

その数は服を作る”服造部門”、ショーの演出を担当する”演出部門”、そして広報活動を担当する”広報部門”の3つ。この3つの部門に所属する全員が同じ目標を目指し、切磋琢磨しながらショーを作り上げていく。

取材をする為、繊維研究会の会議に訪れた10月下旬のある日。丁度その日は服造部門の学生たちが作り上げてきた”ショーで発表する服”のお披露目会であった。服造部門の学生が集まっているデスクにはたくさんの布と、時間ギリギリまで布に糸を通す学生の姿が。出来上がった服を実際にハンガーに掛け、お披露目をすると、その度にメンバーから歓声が上がった。また、それと同時進行で進められたショーで履く靴の決定。お互いの服のイメージに合う靴を話し合い、色や形、ヒールの高さまで全員で話し合いながら決めていく。

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さらに、演出・広報部門の学生が集まるデスクを覗くと、パソコンを片手にショーの際モデルが歩く軌道はどのルートが一番観客に服の意思を受けてもらえるか、1分単位で決めていく為の話し合いがなされていた。ショーの演出は勿論だが、ショーの際に配るハンドアウトなどの作成も彼らの仕事。今回発表された服の中から、前撮りし広報やハンドアウトに使用するルックをピックアップし、それらを撮る撮影場所の決定や小道具の調達を念入りに打ち合わせていた。

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繊維研究会のショーは、”ただ服が好きな大学生が集まり、服を作って発表するファッションショー”というものではない。”服”という人間にとって一番近い存在であるものを使い、服飾業界の人間は勿論、普段何気なく服を纏っている人たちに向けた”ファッションとは?””メディアとは?””時間とは?”と問題提起のインスタレーション”を行う。その為に必要なのは、考えを言葉として成立させる前の「こういうことがしたい」という漠然とした状態からの話し合いが必要だ。何もない状態から少しずつ考えを重ねていく。その過程を知っているからこそ、それぞれの考えの捉え方がぶれないのだ。勿論、彼らに考えの一貫性がなければその思いは観客には届かない。その為にも、毎週水曜日に学生会館で行われる会議はなくてはならない存在なのである。みんなで1から考えるからこそ作ることが出来る服、そしてその考えと服を観客に一番良い形で届けるための演出、そして出来上がるショーを言葉にして伝える広報。全ての部門がお互いを知り尽くしているからこそ自信のあるものを作ることができるのではないだろうか。

今回の会議は、2・3年生だけで行われる最後の会議をいうことで来週から参加する1年生への指示の最終確認や、先輩としての2年生への役割分担、またこれから発表される服の中から前撮りに使用するピースの選出など、いつも以上に忙しそうな学生たち。しかし、それぞれの表情は活き活きとしており今回のショーに向けた自信のようなものを感じられた。

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12/11(日)寺田倉庫にて行われるファッションショー「いま・ここ」。学生たちの自信と誇りに満ちたコレクションを是非その目で確認してほしい。今回のショーは完全予約制。ご予約はこちらから。

 

そして、続きとなる【前編2/2】では、ショーの主役である服を作る服造部門に密着。服をデザインし、服を繕う仕事をする若者が減ってきている今、実際に洋服を作っている学生の彼女たちはこの状況をどのように捉えているのか、2人の学生から直接お話を伺ってきた。そして、気になる今回のコレクション制作の裏話まで語ってくれている。ショーを見に行く上で【前編2/2】は必見だ。

 

前編2/2

 

Text:tomomi abe
Photo:izumi tanaka

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READY TO FASHION MAG 編集部

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