ファッションをテーマに活動している若者のリアルや、業界に対する声をありのままに届ける連載企画「若者VOICE」。本企画vol.5は、ファッションに特化したクラウドファウンディングサービス「closs」にて、東大カレッジブルゾン制作に挑戦中の鎌田 頼人/菅原 優祐の2人に、プロジェクト開始の真意や、活動の原点、ファッションに対する考えを聞いた。

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【連載】「若者VOICE vol.5:現役東大生」ファッションの非言語性を用い、東大生であることを反語的に表現する
鎌田 頼人(以下より:鎌田)
1994年北海道生まれ。教養学部理科2類に入学するも、Street Cultureにのめり込み、現在3回目の1年生。 “yossi 2 the future” という名前でイベント製作やダンス、音楽活動を精力的に行なっている。 Twitter: @yossi41
菅原 優祐(以下より菅原)
1995年横浜生まれ。2014年に東京大学文科2類に進学、同年ヒッチハイクに出かけたところ試験期間までに東京に帰還できず留年した。東京大学文学部思想文化学科インド哲学仏教専修へ進学予定。 Twitter: @yusukeses

—まずは、「東大カレッジブルゾン制作プロジェクト」についてお話の前に、お二人のバックグラウンドや2人を動かす活動の源について伺いたいと思っています。

菅原:はい。まず、僕も鎌田も大学に入学したものの、すぐに留年をしました。引かれた線路から脱線したことをきっかけに、すくすく育っていた木が屈折するように、普通の人が考えていることがつまらなく感じるようになっていきました。

鎌田:いまのところ普通に卒業して、大企業に就職し、30代で結婚して…というライフスタイルに興味が湧かないんです。一度、留年したことで、変なプライドがなくなって、大きなシステムの中に依存しなくても良いと思うようになりました。その反対に、好きなことをプロジェクトペースでやって、生活していきたいと考えています。

 —-なるほど、プロフィールを見る限り、お二人ともなかなか独特な経歴を持っていますね。「普通の人が考えないこと」「プロジェクトペース」というのがお二人を動かす理由の1つになっているようですね。

菅原:そうですね。普通の考え、つまり固定概念というのが押し付けられることにすごく抵抗感があります。特に、”東大生”というレッテルに。皆、”東大生”だから〇〇という先入観を持って接してくるのですが、大学に入学してから1年間はこれによるストレスで、本気で悩みました。でもある時に、自分らしさを見出してくれる人がいて、”東大生”だけど、”君は〇〇だよね”というように個人として見てくれる人がいて、そこから自分自身に自信がつくようになりました。悩んでいる時は、東大生ということを名乗るのが怖くて、”東大生”という肩書きを隠して生活をしていました。

鎌田:僕は、高校生の時に医者になりたいと思って勉強をしていたのですが、周りに相談をすると、”お医者さんはこうあるべき”“このように振る舞わなくてはいけない””これはしてはいけない”という言葉を押し付けられて、自分という個人を置き去りにして、社会が思う”お医者さん”に自分を合わせていくということに抵抗を持ち、違う道を選択しました。今になって考えてみると”お医者さん”でも一個人として特徴的な人はいるし、もっと自由でも良いんじゃないかと思っています。このような経験から、人の行動を制約してしまう側面をもつ固定概念というものに興味を持つようになりました。

 —お二人に共通するものが”固定概念”というキーワードだとわかりました。ここからは、今回のクラウドファウンディングを用いた、プロジェクトについてお聞きします。まず、今回のプロジェクトが”東大生”ということを全面に押し出す、ある意味で”固定概念”を強調するようなイメージを持ったのですが、何か狙いがあったのでしょうか?

菅原:はい。今回のプロジェクトは東大生であることをあえて全面に出すことによって、”東大生“ということがその人のバックグラウンドの1つにすぎないということを反語的に伝える目的があったからです。

—-もう少し詳しく教えていただけますか?

菅原:第一印象から、無条件に与えられてしまう強力な”東大生”というフィルターを無効にするためには、あたかもそれが普通なんだということを自虐的に表現する必要があったということです。例えば、東大生に関わる行き過ぎた冗談として『額に学生証を貼り付けて街を歩けば女の子がゾクゾク寄ってくる』なんてものがあって、もちろんそれを実際に行ったとしても白い目で見られるだけで、みんな冗談だとわかってるのですが、これを逆手にとって、制作したカレッジブルゾンには、学生証を見せびらかすことができる胸ポケットを付けました。”東大生”につき回るイメージを過剰なまでに自虐的に表現することで、”東大生”につき回るイメージに疑う隙間を作りました。

鎌田:よく歴史の授業で使用される風刺画ってあるじゃないですか?例えば、成金が夜道が暗いからお金に火を付けて、明かりを灯すというような。これはお金持ちということをあえて過度に表現することで、強いメッセージを伝えると同時に、これは作り話(固定概念)であるというメッセージも無条件に伝えていると思うんです。これに似たような風刺を自分達が自作自演で行なっているのが今回のプロジェクトの実の姿になるんです。

—-いろんな思考や背景が詰まったプロダクトなのですね。今回これをファッションアイテムとして行なったのには理由があるのですか?

菅原:ファッションの非言語性が今回の目的を達成するためにもっとも有効的に働くと考えたからです。ファッションは、語りかけることはないが、言語を用いたときよりも人の感覚に直接訴えかけられることができると考えています。

鎌田:僕はストリートカルチャーに興味があるのですが、ラップでいう、”ディスる”ということを、服という媒体を使用して表現できると考えました。東大生はこうなんだろうという固定概念に対して、皮肉る(ディスる)気持ちも込めています。

—–3月8日にプロジェクトが公開となりましたが、周りの反響はいかがでしたか?
菅原:WWDさんや、fashionsnapといったファッション業界のメディアに取り上げられることで大きな反響がありました。また、それに比例してかなり批判的な意見もかなり出てきました。

鎌田:ある程度の批判的な意見は想定していました。しかし、最も恐れていた事態”僕たちの発信に対して世の中がスルーすること”がなくて安心しています。また僕たちの真意を読み解いてくれた方や、プロジェクトを支援してくださる方がいたので、とても感謝しています。

—-今回のカレッジブルゾンのデザインを東京コレクションのデザイナーKEISUKEYOSHIDAさんに依頼されてましたが、どのような理由があったのでしょうか?

菅原:『明るいのかくらいのかわからない青春の空気と、そこにいる彼らの装い』がコンセプトであるKEISUKEYOSHIDAさんでなければ、東大生の『東大生である事を認めた上で自分自身を認識して欲しい、だが認めてもらいたい自分本人には自信がない』という微妙な空気感を一着の洋服に完全に落とし込む事は不可能だったと思ったからです。

参考:【INTERVIEW—1/2 ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)の デザイナーに聞く!】きっかけは「学校の中のイケてるグループに入りたい!」

—–最後に今後の目標などあれば教えてください。

菅原:いろんなところからデータを参考にして社会を読み取るということを続けたいと思っています。物事の一面だけを捉えるのではなく、多面的に捉えることができる知のプロフェッショナルを目指しています。

鎌田:服だけに限らず、イベントや音楽などクリエイティブなものに興味があります。それと同時に、クリエイティブなものにお金を支払うという文化を大切にしていきたいと思っています。

プロジェクトの詳細はこちら:

現役東大生が東コレブランド「KEISUKEYOSHIDA」と共同で大学ネームの付いたブルゾンをクラウドファウンディングで制作!

photo/text: S.takano(READY TO FASHION)

READY TO FASHION MAG 編集部

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