服飾学生団体の活動においてクリエイションを担う学生にインタビューする連載企画、第二弾。今回は、立教大学を主体とし、年に2回のファッションショーを開催する服飾デザイン研究会/FDLのデザインチームに所属する3人に団体や制作について詳しく話を聞きました。

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「分野を横断した方が新しい価値観が生まれる」Keio Fashion Creator デザイナーチームに聞く、学生団体でデザインを学ぶ理由

はみ出し者が馴染める場所

ー 服飾デザイン研究会(以下、FDL)では、服飾の専門学生だけでなく短大や四年制大学の学生も活動していますよね。

小川:部員は全体で70名弱ほどで、割合で言うと服飾の専門学生とそれ以外の学生で2対8くらいです。

浜田:チームはそれぞれデザイナー、制作、運営、プレスに分かれて活動しています。毎週金曜日にミーティングを行っていて、デザイナーは毎週課されたワークを持ち寄ってお互いディベロップし合っています。

青木:チームワークは良いよね。

小川:一緒に出かけたりするくらい仲が良くて、上下関係もないです。会議中にガヤが飛んでくることがあるくらい(笑)。

浜田:怒ることは基本的にないです。会議でクリエイティブな話をする時は緊張感があるけど、ぽっと出たアイデアが良ければ、1年生だろうと3年生だろうと学年に関わらず選ばれる。
クオリティが高くて面白いものができるならそれでいいし、仲が良いに越したことはないっていうマインドは共通しているんじゃないかな。

ー服飾関係の学生団体は関東だけでも10以上あります。その中からFDLを選んだのはなぜですか?

小川:FDLに所属していた先輩から誘われたのがきっかけでFDLを知ったんですけど、もともと服を作りたいと思っていたのでちょうどいい場所だなと思いました。
でもなんて言ったらいいんだろう、一番やりやすそうって思ったんです。

青木:ボトムアップの体制ができているし、どんな人でも団体に入りやすい雰囲気だよね。

浜田:そうだね。はみ出し者が馴染みやすい。

ーはみ出し者?

浜田:大学でも陰から陰を歩いている人たちみたいな(笑)。モードで固めている団体も多い中で、そういうことができない人たちの集まりです。

ーみなさんが着ている服もベースにストリートっぽさがありますよね。

青木:メンバーもそうかもしれないです。服飾学生団体らしいモードのスタイルじゃない人も多いかな。

浜田:ファッションはもちろんだけど、聴いている音楽もカルチャー寄りだったり、好きなものが近いのかもね。

ー親しみやすそうな雰囲気が入部につながったというのは意外でした。デザインを学ぼうと思って入部したわけではなかったんですか?

青木:そうですね。独学で服を作っている団体って数少ないし、ちょっと変わった経験をしたいという思いとファッションが好きっていう気持ちがつながって入部を決めました。

浜田:僕も服を作ろうと思って入部していません。四年制大学に通いながらファッションの制作に携われるんだったら、学生生活を通して楽しいコンテンツになるなと思って。

自他ともに向き合えるような作品を作りたい

ー専門学校で講義を受けたり、外部から講師を招いたりする学生団体もありますが、服作りは基本、独学なんですか?

青木:FDLは全て独学です。

浜田:ここ1年間はプチ授業みたいなのもやってみました。僕がここのがっこうで学んだことや大学で専攻している詩や文芸に関する学びを自分なりに再現した、体験版みたいな感じで。
各服飾学生団体ごとに、モードやビジネスライクなどデザインの特徴があると思うんですけど、アパレル企業が作るような既製品には太刀打ちできないので、FDLでは自他ともに向き合えるような作品を作ることを掲げているんです。

ー自他ともに向き合える作品とは?

浜田:デザイナーって制作する上で自分のことを見つめることができると思うんです。自他ともに向き合える作品とは、テーマに則したさまざまな価値観や捉え方がファッションとして昇華することで鑑賞者の新たな視点や気づきのきっかけになれる作品です。
今年に入ってからそのテーマをより強化しています。テーマや演出を決めるときや制作するとき、飲み会や帰り道でも自分たちが何をしたいのかはチーム内で積極的に話すようにしています。

ーそうは言っても、独学で一から服を作るのって大変じゃないですか?

青木:最終的にフィッティングした時に、思ったようなシルエットにならないと無限に修正をしなければならないので大変ですね。でも自分でトライ&エラーを繰り返したり、先輩にアドバイスをもらったりして作品を完成させています。

ー活動するなかでの面白さはどんなところにありますか?

青木:服飾やデザインを専門的に学んでいない人たちが集まっているからこそ、より自由に表現ができるのが魅力です。

あと、デザインだけでなく普段のファッションや趣味でも刺激しあえるので楽しいですね。

小川:代表がここのがっこうで学んだことをFDLでもアウトプットしてくれるから、デザインの勉強になるのはもちろんなんですが、普通の大学生活を送っていたら交わらないような人たちと関われるようになったのもFDLにいたからこそだと思います。
最近では、興味のある音楽を活かしてDJの活動もするようになりました。服だけじゃなくカルチャー全般を吸収できる環境です。

浜田:僕は2軸あって。クリエイションの面でいうと、FDLとして独立してファッションショーを開催したり収益化を無視して自由に表現することが許される場って、学生団体だからこそだと思うんです。なので作っていて楽しいし、居心地がいいです。
チームビルディングの面では、もともと組織作りに興味があったので、チームでの動き方を少しずつテコ入れしながら改善していくのにやりがいを感じます。

ーチーム構築で特に意識していることはありますか?

浜田:他の団体がやっているようなトップダウン的な体制にも良さがあると思うんですけど、組織として積み重ねたものをきちんと蓄積できるようにしたり、どうしたら後輩が成長できるかなど、FDLならではの良さを残した組織をいかに作れるかを意識しています。

アトリエはずっと中2の夏休みのよう。この先もファッションに関わり続けたい

ー今回のショー「カラノ」とは?

浜田:1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」のパビリオン(博覧会場の展示館)に、SF漫画家の松本零士がテーマとして設定した時空快速艇「カラノ」があって、それにインスパイアを受けたショーです。

「カラノ」のリファレンスになっているのが、『古事記』の枯野伝説と呼ばれている船の物語。みんなが表現したいものって何なんだろうって考えた時に出てきた「万博」や「自然」のキーワードが組み合わさって、このテーマになりました。

ールックごとにテーマはあるんですか?

浜田:デザイナー各々、テーマはあると思うんですけど、それを明文化することはないです。ルックは基本的にデザイナーひとりにつき1体作成していますが、専門学校に通っている人は2体作ることもあります。

ー自他ともに向き合うデザインとおっしゃっていましたが、デザインはどのように考えているんですか?

青木:両親の趣味で家具や車など身の回りにアンティークのものが多かったこともあり、小さい頃から廃墟や廃駅など古くて荒廃的なものが好きで。現代でも輝いている当時のエネルギーに魅力を感じるんです。僕はそこからデザインにつなげています。 

  • 祖父母が田畑の広がるような田舎に住んでいるのですが、昔から見てきたその風景と魅力を感じる廃れたものの雰囲気から着想を得て作成。生活していくために懸命に生きる貧しい農家をイメージしている。

小川:去年のルックは、自分が好きなヒップホップやアニメ、映画などのジャンルから着想を得ました。今年のショーではここのがっこうに通っている代表の話を聞いたのをきっかけに、自分自身を見つめ直したデザインにしました。
好きなものだとテーマが定まらないことも多いので、自分が小さい頃に見てきた質感や色など経験や感じたものからアイデアを引っ張ってきたほうが面白いと思ったんです。

  • 幼少期に見た風景からインスピレーションを得た。田舎の農家育ちということもあり、畑や地面をイメージしている。

浜田:僕はここのがっこうのマテリアル専攻で学んだことからデザインを考えるか、詩がイメージになることが多いです。特定の詩作品を元に作るのではなく、どちらかというと詩の言葉を洋服で表現できないかなという、ある種の挑戦もあります。

  • 2ルックとも工業用のワイヤーと不織布から作成。1stルックは「枯野伝説」のリファレンスを意識して手編みでニット風なデザイン。チャーシューにかけた紐から肉がはみ出ていたシルエットに惹かれたことや、印象の強いワイヤーのニットに負けないようなインナーを作りたいという思いから完成した。
  • ファイナルルックは1stルックと対比して「カラノ」のSF的要素を表すために、構造的に作られたニットのストールをメインに仕上げました。

ーデザインはアトリエに集まってやっているとお聞きしました。

浜田:そうですね。朝の3時に急に爆音でDJを回し始めたりとカオスな空間です。

小川:ミシンやワイヤーの他にもギターやDJの機材も置いてあったり、工業的な世界観だよね。

青木:ほんとうに秘密基地。

浜田:ずっと中2の夏休みみたいな空間。

小川:夏休みの自由研究をずっとやってるみたいな。

ー卒業後はどんなことをしたいですか?

小川:ファッション業界と離れてしまうのですが、DJもやっているのでレーベルに入って、メディアとかに触れられたりするような状況を整えてから独立したいです。
でもファッションと音楽のつながりは根強いと思うので、もしFDLで音楽が必要になる時があればイベントを手伝ったりしたいです。

浜田:作ることは続けていきたいです。でも、通っていた塾で教育に関わったりファッションイベントの制作とかもやっているので、どんな形にせよファッションで社会に還元できたらうれしいです。

青木:僕もどんな形になるかわからないですけど、服に関わり続けていきたいです。アウトプットってどんな形でもできると思うので。

服飾デザイン研究会/FDLについて

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三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。