斉藤遼(さいとう・りょう):1991年生まれ。2012年、在学中より国内アパレル企業で販売スタッフとしてアルバイトを開始。2014年に新卒入社し、販売員・店長を経て、2021年よりMD・商品企画を担当。商品計画や企画など幅広い業務に携わる。2025年に独立し、自身のブランド「SabiN(サビン)」を立ち上げる。現在はブランド運営に加え、古着の販売・卸事業も手がけるほか、SNS講師やインフルエンサーとしても活動している。@ryo__saito

販売員からMDへキャリアチェンジし、その後独立。現在は自身のブランド運営に加え、SNS講師やインフルエンサーとしても幅広く活躍する斉藤遼さん。

自身のコンプレックスや悩みを解消するためのスタイリングを軸に、SNSやECサイトのスタイリング投稿で発信を続けてきました。その内容は多くの共感を集め、同じ悩みを抱える人にとっても参考となる存在に。気づけばフォロワーが増え、現在の活動へと広がっていきました。

「仕事を通じていろいろな人の役に立つことを広げていきたい」と話す斉藤さん。その姿勢は、販売員時代から現在の活動までどのようにつながっているのでしょうか。これまでのキャリアを振り返りながら、話を伺いました。

販売員からMDへ。12年間のアパレル企業勤務で培った視点

──新卒で国内アパレルブランドに入社し、キャリアをスタートされました。

中学生の頃、友人の影響で古着が好きになり、「大学生になったらアパレルブランドでアルバイトしたい」と思っていました。大学生になって念願だった国内アパレル企業でアルバイトを始めたのですが、その仕事が純粋に楽しく、就職活動もアパレル業界に絞っていました。

数社ほど選考を受けましたが、アルバイト先の上司に憧れていたこともあり、最終的にはその会社に入社しました。アルバイト期間を含めると約7年ほど販売の現場に立ち、そのうち3年ほどは店長を経験しています。その後、本社へ異動し、4年ほどMDや商品企画を担当しました。

──本社職へのキャリアチェンジは入社当初から見据えていたのでしょうか?

入社当時は、全く考えていませんでした。お客さん目線でも販売員のかっこよさに憧れていましたし、現場で洋服選びのお手伝いをしながらお客様に満足していただける接客がしたいという思いが強かったんです。

もともと戦略的にキャリアを考えるタイプではなかったので、明確なキャリアビジョンがあったわけではないんです。販売員として働く中でより多くのお客様にブランドを知ってもらえる仕事がしたいと思うようになり、徐々に本社職を意識するようになりました。

──MDへの異動はどんな経緯だったんですか?

実は、もともとプレスやウェブ系の職種を志望していて、年に数回ある社内の異動希望調査でもアピールしていました。そんな中、上司から「MDをやってみない?」と声をかけていただいたのがきっかけです。希望していた職種ではありませんでしたが、販売員としての経験を活かしながら自分の幅を広げられるチャンスだと思い、挑戦してみることにしました。

──異動後、販売員として培ってきた現場感覚と、MDに求められる数字やロジックの考え方との間で、ギャップは感じませんでしたか?

ありましたね。MDは数字の仕事なので、予算設計や販売計画、型数、ロット数の管理など細かな戦略を立てる必要があります。その部分は特に苦労しましたね(笑)。周りの方にサポートしていただきながら、少しずつ身につけていきました。

一方で、MDと並行して担当していた商品企画では、自分が企画した商品がブランドの定番品になったこともありました。売上に貢献できたことはもちろん、お客様のニーズを汲み取れていたんだなと実感できた瞬間でした。もの作りでは、お客様のニーズとブランドらしさをどう両立させるかを考える面白さがあり、その経験は現在のブランド運営の礎になっています。

──振り返ってみて、キャリアチェンジの際に評価されていたことは何だと思いますか?

上司からは、「お客様の半歩先くらいの、行き過ぎないトレンド感や等身大のニーズを感覚的につかめているよね」と言っていただいたことがあります。また、ECサイトのスタイリング投稿経由の売上が、社内のメンズ部門で2年連続1位だったことも、評価していただけた理由の一つだったのではないかと思います。日々の接客でもスタイリング提案が一番好きだったので、オンラインでのスタイリング投稿も楽しみながら続けられましたし、販売員としても自信につながりました。

──現在、インスタグラムでも多くのフォロワーを抱えていらっしゃいます。ご自身やスタイリングの見せ方は、もともと得意だったのでしょうか。

特段、得意意識はありませんでした。童顔で若く見られてしまうことがコンプレックスだったので、スタイリング投稿では「渋く見せる大人スタイリング」をテーマに発信するようになりました。自分自身の悩みを軸にスタイリングを提案していたら、いつの間にか同じ悩みを抱える方々に見ていただけるようになり、数字も後からついてきたという感覚です。

SNSの投稿も同じで、最初からターゲットを絞っていたわけではありません。自分なりのスタイリングを発信し続けた結果、同じ悩みや思いを持つ方に届いたのだと思っています。数字が伸びたり、うれしいお声をいただいたりする中で、発信する意味をより感じられるようになっていきましたね。

──SNSに本格的に注力し始めたのは、いつ頃だったんですか?

2〜3年ほど前です。それまでは日記のような感覚で使っていて、更新頻度もまばらでした。見よう見まねで投稿した自己紹介動画が思いのほか伸びて、そこから徐々にフォロワーが増えていきました。その時期を起点に、1年で5万人ほどフォロワーが増えましたね。

振り返ると、当時からテーマを絞って発信できていたことは大きかったと思います。流行っている動画は参考にしていましたが、ファッションと関係のない内容で再生回数を狙うことはしたくなかった。自分なりの軸を持って発信を続けられたことが、今につながっているのかもしれません。

──現在、ブランドと並行してSNS講師としても活動の幅も広げられています。

会社として強化していきたいというご相談をいただいたことがきっかけで、大手アパレル企業で販売員の方に向けたSNS運用のレクチャーをさせていただきました。SNSに苦手意識を持つ販売スタッフの方も多いですが、一人ひとりに必ず強みがあります。その魅力をどう見せるかを一緒に考え、アカウント設計から発信テーマ、写真や動画の作り方まで伴走しながら、トライアンドエラーを重ねています。

実際に、フォロワー数が数百人だったスタッフの方が3ヶ月で1万人、現在では8万人を超えるまでに成長したケースもありました。もともと魅力のある方だったので、それを伝わる形にできたことが結果になったのだと思います。講師としてもうれしい経験でした。

──販売員時代の接客経験が、SNS講師の仕事にも活きているのでしょうか。

そうかもしれません。販売員時代は、お客様の悩みや不安を聞きながら、一人ひとりに合わせた提案をしてきました。その経験が、今はスタッフ一人ひとりの強みを引き出し、発信方法を考える仕事にも活きている部分はあると思いますね。

目の前の挑戦が次のキャリアをつくる

──独立を考え始めたきっかけはなんだったんですか?

店長や責任者などさまざまな役割を任せていただき、その仕事の楽しさはもちろん実感していました。ただ、年齢を重ねる中で改めて自分のキャリアを考えた時に、自分の性格上、このまま会社でキャリアアップを目指し続ける姿はあまり想像できなかったんです。

ちょうどその頃、SNSでの発信にも勢いが出てきていたので、一度自分のやりたいことに挑戦してみるのもいいかなと。最終出勤を終えてから独立を決意し、デザイナーと二人三脚でデザインやパターン、生地選び、ルック撮影、PRまで一つずつ形にしていきました。

──先が見えない不安はありませんでしたか?

もちろんありました。でも、楽観的な性格なので「なんとかなるかな」と思っていました(笑)。これまでも目の前のチャンスに飛び込みながら進んできたので、今回もその延長くらいに考えていたのかもしれません。

──ご自身のブランド「SabiN(サビン)」を立ち上げるにあたって、MDや商品企画の経験はどう役立っていますか?

MDとして、もの作りの背景を理解できていたことは良かったです。「SabiN」は、ライフステージの変化によってファッションにかけられる予算が限られてきた方にも、日本製で品質の良いものを手に取りやすい価格で届けたいという思いから始めたブランドです。

販売価格だけでなく、製造コストや利益とのバランスを考えながら商品を作る視点は、MD時代に培ったものです。お客様のニーズを満たしながらブランドとして成立させる考え方も含めて、これまでの経験が活きています。

──ブランドを立ち上げて約1年。率直な手応えを教えてください。

難しさはもちろんありますが、ファーストコレクションでは発売した2型が完売し、自信にもつながりました。現在は次のシーズンに向けて準備を進めていますが、現在の課題は認知度です。個人での発信だけでは限界も感じているので、より多くの方に知っていただくきっかけを模索しています。

──これまでのキャリアを通して、やっておいてよかったと感じることはありますか?

接客を通して、お客様のニーズを汲み取る力やコミュニケーション力を身につけられたことですね。そうしたスキルは独立した今も欠かせないので、接客経験はキャリアにおいて財産になっています。

あとは、チャンスが来た時に飛び込んできたことです。希望していたウェブ職種を待ち続けることもできましたが、MDに挑戦してみたり、ECサイトのスタイリング投稿も早い段階から取り組んだりと、目の前のチャンスを逃さずに行動してきたことで、自分でも想像していなかった道が開けました。

──今後のビジョンは?

まずはブランドの認知度を高めるために、ポップアップなどリアルでお客様と接点を持てる機会を増やしていきたいです。

その先では、仕事を通じていろいろな人の役に立つことを広げていきたいです。例えば、「古着を卸してほしい」「いい古着を安く買い付けたい」という人には、古着の販売や卸の事業を展開したり、自分と同じようにブランドを立ち上げたい人がいれば、これまでの経験を活かしてサポートしたり。自分が先頭に立つというよりも、挑戦する人の背中を押せる存在になれたらうれしいです。

──最後に、ファッション業界を目指す方へアドバイスをお願いします。

まずは目の前のことに一生懸命取り組むことが大切だと思います。もちろんキャリアプランを持つことも大切ですが、やりたいことがまだ明確でない方は、目の前の仕事と向き合いながら、チャンスが来た時に迷わず挑戦してほしいです。

一つひとつの挑戦の積み重ねが今のキャリアを形づくっています。まずは目の前のことに向き合っていけば、その先で自分のやりたいことも見えてくるのではないでしょうか。

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三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。

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