プロフィール:
木内琢磨(きうち・たくま)1994年生まれ。群馬県出身。明治大学卒業後、ブランド古着店での勤務を経て、ヨーロッパ古着のパイオニア的存在である「ミリタリア」「アンコール」を運営するワルツワルツに入社。2023年に独立し、ヨーロッパ各地で買い付けたヴィンテージウェアを扱う「KIT VINTAGE」をオープン。ショップ運営のほか、「ゆーみん&きうてぃ」としてYouTubeでもヨーロッパ古着の魅力を発信している。

今回お話を伺ったのは、ヨーロッパ古着を扱う名店で経験を積み、2023年に自身のショップ「キット ヴィンテージ(KIT VINTAGE)」をオープンした木内琢磨さん。南青山に店舗を構え、ヨーロッパヴィンテージを中心とした独自のセレクトを展開するほか、YouTubeでもその魅力を発信し続けています。

いつか自分の店を持ちたい。高校生の頃から抱いていたその思いを軸に、どのようにアパレル業界で経験を重ね、独立へと辿り着いたのでしょうか。古着との出会いから現在に至るまでのキャリアと、その背景にある考え方を伺いました。

ヨーロッパ古着に魅了された理由

──これまでのご経歴を教えてください。

大学卒業後、ブランド古着を扱うリユース企業に入社しました。ただ、働く中でいわゆる一般的な古着を提案できる環境に身を置きたいという思いが強くなっていったんです。1年ほどで退職し、高円寺でヨーロッパ古着を扱う「ミリタリア(militaria)」「アンコール(encore)」を運営する会社へ転職しました。そこで5年間経験を積み、2023年に独立して「キット ヴィンテージ」をオープンしました。

──そもそもファッションに興味を持ったきっかけは?

高校生の時、部活に入っていなかったこともあり、服好きの友人とよくカジュアルブランドを見に行くことが多く、自然とファッションに興味を持つようになりました。当時は新品も古着も分け隔てなく楽しんでいたのですが、そんな折、よく読んでいた雑誌『CHOKiCHOKi』で原宿の古着屋特集が組まれていて、それをきっかけに原宿の古着屋を探索するようになったのが、古着を好きになった原点でしたね。

──アパレル業界へのキャリアも、自然な流れだったのでしょうか。

高校3年生の頃には、将来は洋服に携わる仕事をしたいと思っていました。当初は専門学校への進学を考えていたのですが、思ったより成績がよく、担任の先生から大学進学を強く勧められて。大学に行ってからでも専門学校に通うのは遅くないと思い、まずは大学に進学しました。

大学進学後は、アパレル業界に入るかどうか迷うこともありました。もともと物を売る仕事自体に興味があったので、広告業界なども含めて幅広く就職活動をしていました。ですが、最終的には、やはりファッションに関わりたいという気持ちが消えず、選考を通じて出会った社員の方に背中を押されたこともあり、ブランド古着の会社に新卒で入社しました。

──その後、なぜミリタリアへ?

1社目を辞めた後、古着屋で働きたいと知人に相談した際に教えてもらったのが、「ミリタリア」です。実際に店舗へ行ってみると、扱っているアイテムはもちろん、什器や空間作りまで含めて、ミニマルなのに存在感があったんです。なんだこの店は、と純粋に惹かれたのを覚えています。それですぐに履歴書を持っていったら、ありがたいことに内定をいただくことができました。実を言うと、当初はヨーロッパ古着というジャンル自体をほとんど知りませんでした。なので、働きはじめてから本格的にヨーロッパ古着の知識を学んでいきましたね。

──初めてヨーロッパ古着に触れた時、どんなところに魅力を感じたのでしょうか。

ミリタリーやワークウェアを扱うお店だったこともあり、年代判別やディテールの違いなどを細かく教えていただいたんです。もともと世界史が好きだったので、歴史の流れの中に存在しているモノとして洋服を捉えられたのが面白かったです。知れば知るほど奥行きが増していく感覚がありました。

それもあり、最近はユーロヴィンテージの解説動画も発信し始めました。もちろん洋服は見た目だけでも楽しめますが、自分と同じように知識欲を満たしながら古着を楽しみたい人もいるんじゃないかと思っています。

──YouTubeでの発信を始めたきっかけはなんだったんですか?

当時(2019年頃)、ヨーロッパ古着について発信している人がほとんどいなかったんです。古着屋のブログなどで少し情報が出てくる程度で、かなりコアな世界でした。実際、私自身も古着が好きだったにも関わらず、ヨーロッパ古着のジャンルを知らなかったくらいだったので、まだこの魅力に気づいていない人が多いのでは、と感じていました。

ちょうどその頃、古着系のYouTuberが注目され始めた時期だったので、「ミリタリア」で教わった知識を発信したら面白いかもと思い、ゆーみんに相談して翌日には撮影を始めていました。

入社から3〜4ヶ月ほどでYouTubeを始めたんですが、タイの古着倉庫の動画やコラボ動画をきっかけに、想定以上に登録者数や再生回数が伸びて。自分をめがけて来店してくださるお客様も、体感で3倍くらい増えました。そうしたことも評価していただき、入社から1年後にはヨーロッパ買い付けにも同行させてもらえるようになりました。24歳で現地買い付けを経験できたことは、自分の視野を大きく広げるきっかけになりましたね。

──24歳でのバイイング経験はかなり早いですよね。

そうですね。育成に力を入れているオーナーやお店に出会えたのは、大きかったです。実際にヨーロッパに足を運ぶことで、仕入れ先や現地の古着屋、コレクターなど、日本にいるだけでは見えなかった背景が立体的に理解できるようになりました。

──「ミリタリア」で働く中で、意識して積み上げていたことはありますか?

売り上げと接客のバランスを意識していました。新卒で入った会社では、とにかく数字に対する意識を徹底的に叩き込まれたので、「どうしたら来店につながるのか」「どうしたら購入してもらえるのか」といった部分を、感覚だけでなく導線や売上も含めて考える癖が自然と身についていたんです。

なので、「ミリタリア」では接客やコミュニケーションを大切にしながらも、単に古着好きの店員ではなく、売上や集客、接客まで含めてトータルで店作りを考える意識は強かったです。その意味では、アパレル企業での経験が活きていたと思います。

あとは、将来的に自分の店を持ちたいという気持ちはずっと変わらなかったので、意識的にいろんな人と関わったり、休日も古着屋を巡ったりしながら勉強していました。

──人脈作りも意識されていたんですか?

人脈を作ろうという意識は特になかったです。ただ、お客さんの中に古着に詳しい方がいたら、一緒に古着屋巡りはしたりしていました。いろんな店舗を見て回る中で、「働いている店の強みはなんだろう」「自分ならどう見せるだろう」と考えることが多く、自然とマーケットリサーチのような視点を持ちながら日々過ごしていた気がします。

キャリアの積み上げ方はサーフィンと同じ

──本格的に独立を意識するようになったのは、どのタイミングだったんですか?

入社して3年目で、ヨーロッパの買い付けに3回ほど同行した頃です。現地での流れを実際に経験する中で、見よう見まねでもやれるかもしれないと、少しずつ思うようになりました。

同時期に、YouTubeの登録者数も増え、全国を巡回するポップアップもスタート。自分の名前でお客様に来ていただける実感も生まれ、この延長線上で独立のイメージも沸いてきたんです。

とはいえ、「ミリタリア」に愛着がありましたし、働くこと自体も楽しかったので、2年ほどはずっと揺れていました。ただ、独立自体は高校生の頃から思い描いていたことでもあったので、失敗してもいいから一度挑戦しようと思い、決断しました。何か決定的な出来事があったわけではなかったので、最後は自分を奮い立たせて(笑)。

──この状態なら独立してもいい、という基準はありますか?

状況にもよると思いますが、自分の中でうまくいく流れがある程度イメージできるかどうかは大切だと思います。独立前から、店舗とは別でポップアップをやっていましたし、売上もある程度立てられていたので、独立後もこの流れを続ければやっていけそうだな、という感覚は持てていました。

自分は一気に大きい階段を作れるタイプではないので、小さい階段を一段ずつ作っていって、気づいたら高いところまできていた、みたいな感覚に近いですね。

──これまで積み上げてきた経験が、自信につながっていたんですね。

感覚としては、キャリアの積み上げ方ってサーフィンに近いと思っているんです。いい波が来た時にしっかり乗るし、来ていない時は無理に動かない。流れがないタイミングで大きく動いても、なかなか結果にはつながらないと思うんです。だからこそ、普段から小さく準備を重ねて、チャンスがきた時にしっかり乗れる状態を作っておく。そのタイミングを見極めることは、これまで意識してきました。

──独立を目指す上で、どんな経験が大切だと思いますか?

未知の環境に飛び込んで、トライアンドエラーを繰り返すことだと思います。その中で、小さくても手応えがあると感じるものを続けていくことが大切なのかなと。

実際に、商材トレンドの変化や、自分が理想とする店と現状のギャップに悩むこともありましたが、そうしたズレって小さな行動やアイディアで埋めていけるものだと思ってるんです。大きな成功を掴むというよりは、小さなPDCAを回しながら、うまくいったものを少しずつ取り入れていくように意識していますね。

あとは本を読むことですね。ビジネス書は好きで、今でもよく読みます。特に影響を受けたのは、『ビジョナリー・カンパニー ─時代を超える生存の原則(ジム・コリンズ、1995年)』と『人を動かす(D・カーネギー、1937年)』。どちらも定期的に読み返しています。本って、実際に未知に飛び込むわけではないですが、自分の知らない考え方や価値観に触れられるじゃないですか。そういう知的好奇心は、仕事をする上で大切にしています。

「余白」が、いいアイデアを生む

──ご自身が教わってきた経験を踏まえて、スタッフ教育についてはどう考えていますか?

自分が教えてもらったことは、できるだけ後輩にも還元したいと思っています。なので、スタッフを実際に買い付けに連れていくこともあります。経営する立場になって実感したのは、スタッフもお客さんと同じだということ。もちろん給与や待遇も大切ですが、その上でここで働いているのが楽しい、と思える環境を作れるかは重要だと感じています。

スタッフがやりたいことを実現できているか、楽しく働いて生活基盤を築けているか。そういうことは常に自問しながら向き合っています。

──店舗で働くスタッフに対して、特に大切にしてほしいことはありますか?

「暇」を持ってほしいです。私自身も、毎日忙しさだけに追われていたらYouTubeは始めていなかったと思うんです。結局、アイデアって余白がある時に生まれるものだと思っているので、常にタスクで埋め尽くされるのではなく、考える余白は持っていてほしいです。

実際、スタッフにも作業をこなす仕事ではなく、自分で考えながら取り組める仕事を渡すようにしています。日本だと長時間働くことや忙しさが美徳として語られることも多いですが、ヨーロッパへ行くたびに、現地の人たちのゆったりした働き方や価値観に触れて、改めて余白を持つことの大切さを実感しますね。

──先ほど、理想の店とのギャップに悩んだ時期もあったとおっしゃっていましたが、目指している店の理想像はありますか?

パリにある「サンクス・ゴッド・アイム・ア・ヴィーアイピー(THANX GOD I’M A V.I.P)」というお店は理想のヴィンテージショップの一つです。

古着の面白さは、セレクトショップやファストファッションにはない、バリエーションの豊富さだと思うんです。だからこそ、自分もヨーロッパ各地の仕入れ先をもっと開拓して、さらに提案の幅を広げていきたいです。

その上で、10年20年後も支持されるユーロビンテージショップでありたいと思っています。そのためにも、YouTubeではヨーロッパヴィンテージを体系的に学べるコンテンツを継続的に発信していく予定です。世界にはまだまだいいヴィンテージがたくさんあるので、ヨーロッパ古着を楽める土壌そのものを広げていけたらと思っています。

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三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。

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