ドラマや映画で活躍中の俳優、斎藤工さん。映画好きで知られ、2012年より監督業に進出。昨年はデザイナー、芦田多恵のドキュメンタリー映画を監督されています。ファッションにも造詣が深い斎藤さんは、服にどんなこだわりを持っているのでしょうか。

 

洋服は考え抜いて、買う

俳優として、服に関しては「こんな服を着せたい」と思ってくださる方の、意向に委ねることが多いです。タイムスリップする設定の映画に出演したときは、学ランを着たこともあります。ですから着るものは、思いのほか自分自身とは直結していません。普段着は移動着になるので、ジャージだったりします。

とはいえ個人的に、洋服は好きなので、展示会やファッションショーで気になったものは、考え抜いてから買います。ただ、そういう場所に行ったことがある方は、分かると思うんですけど……、結構お値段がする感じでも、麻痺しちゃうんです。それが展示会の魔力というか。それで、後々忘れた頃に着払いで届いたときの、自分自身の“打たれ弱さ”というか(笑)。そのギャップにはいつまでも慣れないので、ブランドものだけで全身を固めるということもないです。

そんな私ですが、去年ファッションにまつわる映画を撮らせていただきました。デザイナー芦田多恵さんの、ファッションショーの舞台裏を撮影したドキュメンタリーです。ファッションがつくられる過程を追うことで、服が職人さんの技術や想いの結晶であると痛感しました。そういった体験もあって、自分が出合う服には愛情を感じる方だと思います。

 

 

気候風土にマッチした素材に惹かれる

僕はバックパッカーだったのですが、その頃はお金がなかったこともあって、アジア圏の旅が中心でした。そこで見た、麻などの通気性に優れた服が印象に残っています。高温多湿な環境で着るのに、理にかなった服ってあるんです。この間もマダガスカルに行ってきたのですが、そこで生産されている服は、やっぱり通気性が良いぶあついガーゼのような生地が多かったです。

地域の衣服の素材は、選ばれるべくして選ばれています。それがトラディショナルになっていく。そんな地域性とファッションの関係に、興味があります。僕自身が着ている服も、比較的風が通る素材感のものが多いかもしれません。スナフキンのような格好だとよくいわれます。

 

クリーニング店での撮影は、職人ならではの手際に感動

服の手入れに関しては、乾燥機を使うというよりは日光にあてることを大切にしています。布団などもそうですけど、やっぱり太陽光は、それがあたる対象に生命を宿してくれる。太陽のもとに干した衣類って、蘇る感じがするんです。家のベランダには巨大な洗濯バサミや物干しがあって、そこにいつもぎっしりと干しています。

一方で、僕は本当に簡易的なアイロンしか持っていないので、シャツ系やジャケット系は毎回クリーニングに出します。クリーニングといえば、去年NHKで出演させて頂いたドラマは、クリーニング店が舞台でした。主演の原田知世さんがクリーニング店で働いている設定だったのです。作業場にもカメラが入ったのですが、そこで見た職人さんたちの作業が、まぁ、美しかったです!あのスチームの感じとか……。熱を使うから危ないと思うんですけど、服を蘇らせる行程が滑らかでした。

ファッションのドキュメンタリーを撮った際もですが、昨年は今までお話する機会もなかった、職人さんたちの妙技を見た瞬間がたくさんありました。ですから今は、そういった技を受け止めたうえで、ファッションと向き合うようにしています。

勝負服は靴から決める

僕が自分へのご褒美として2年前に買ったのが、村上淳さんのブランドの、緑色のブーツです。そこは今、受注生産しかしていなくて、ハガキでオーダーをするんです。仙台にいる職人さんが時間をかけて作って下さったブーツは、今ではどんどん履き込んだ味が出てきています。それを履くときは、靴からコーディネートを考えます。勝負服ってわけじゃないんですけど、そのブーツを履いて行くときは、心の襟を正すようなシチュエーションが多いです。

Text:お気に入りをもっと着たくなるライフスタイルマガジン「Lenet MAGAZINE

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