2018年2月10日(土)に開催された19卒向け就活イベント『READY TO FASHION OFF LINE 002』。本イベント内で行われた、業界で活躍する様々な職種の登壇者によるパネルディスカッションの様子を5本に渡って、レポートしていく。

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第4回目のレポートは、「ファッション×スタートアップ」を牽引する3社のCEO登壇編を紹介。スタートアップ、テクノロジー、マスカスタマイゼーションなどをキーワードに、それぞれが見るファッション業界の未来や、ファッション×スタートアップに向いている人や、学生のうちにしておいた方がいいことについて語った。

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司会:今回は、スタートアップ、IT、ベンチャーや起業などをキーワードに話をしたいと思います。まず今日登壇するお三方と各社の紹介からさせていただきます。まず株式会社FABRIC TOKYOの森さんからお願いします。

株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役/CEO 森 雄一郎(以下、森):私たちは「FABRIC TOKYO」というサービスを運営している会社で、 “Fit Your Life”をコンセプトに、スーツ、シャツ、ジャケットなどのビジネスウェアを中心とするブランドを展開しています。自分のサイズのデータをウェブサイトに登録すると、試着なしでいつでもどこでも全てをオーダーメイドのスーツなどを注文できます。ファクトリーダイレクトという、地方の工場と直接提携し、商社など中間流通をすべて排除したものづくりを行なっています。

私の紹介をしますと、大学卒業後上京しアパレルの会社で働き、ベンチャー・スタートアップ業界に入りました。フリマアプリのメルカリの立ち上げに携わり、今の「FABRIC TOKYO」の前身となる「LaFabric」というサービスを2014年にリリースしました。今日覚えて帰ってもらいたいキーワードが3つあります。

株式会社FABRIC TOKYO:https://www.readytofashion.jp/companies/1370083609

1つ目はダイレクト・トゥ・コンシューマー(DtoC)。自分たちで商品を企画・製作し、オンラインで販売するというビジネスモデルです。

2つ目はオムニチャネルです。今、ECサービス(オンライン)が伸びていますが、リアル店舗(オフライン)も重要であり続けます。我々はもともとオンラインから始まった会社ですが、オンラインとオフラインのシナジー(相乗効果)が今後重要になると考えており、オンラインを補完する形でリアル店舗を作っています。

3つ目はマスカスタマイゼーションです。スタートトゥデイが全身のサイズを計測できるZOZOSUITを開発し、ZOZOTOWNもオーダーメイドのブランドをスタートしています。今までは大量生産でトレンドを作り、それを多くの人に広めていくというものづくりの仕方でしたが、我々は1点1点違う商品を届けるマスカスタマイゼーションに対応したブランドです。

※マスカスタマイゼーションの補足
顧客の要望に応えて製品やその仕様をカスタマイズしつつも、マス(大量)に生産することを指す。

株式会社FABRIC TOKYOの求人一覧:https://www.readytofashion.jp/articles/recruitments?q=%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BEFABRIC+TOKYO

株式会社エアークローゼット 代表取締役/CEO 天沼聰 (以下、天沼):「エアークローゼット(airCloset)」の天沼と申します。私と森さんはキャリアの背景が少し違っていて、私はもともとアパレルではない業界で働いていましたが、2014年に2人の仲間と会社を立ち上げ、約60人ほどの会社に成長しました。弊社では、オンラインのファッションレンタルサービスを提供しています。お客様が借りたいと思うものを選ぶのではなく、お客様の好みの色やスタイル、ファッションの悩みなどをいわゆるカルテのようにまとめた情報を元に、私たちのスタイリストが1人1人に合わせて洋服を選び、お届けするということが特徴です。レンタルサービスというと、買うよりも借りることを推進していると思われがちですが、我々はユーザー体験(UX)を中心に考えており、最終的なゴールを、お客様がご自身にあった洋服やブランド、ライフスタイルに出会うこととしています。

サービスとしては、3つ展開しており、1つ目は先ほど説明した「airCloset」。2つ目は不動産最大手のエイブル様と協業し、表参道に常駐店、「airCloset×ABLE」を設けています。オンラインとリアルが融合することでお客様に提供できる価値が高まると考えています。この常駐店は販売員がいないことが特徴で、代わりにスタイリストが常駐しています。3つ目が「pickss」という昨年10月にスタートしたばかりのオンライン試着サービスで、お客様の趣味嗜好にあった洋服を自宅にお届けし、買うか買わないかを判断して頂き、買わないものだけを送り返してもらうというサービスです。3つの共通点は、パーソナルスタイリング、つまり1人1人の趣味嗜好に合ったものをお届けすること。

ITを毛嫌いするのではなく、うまく活用するということが今のファッション・アパレル業界に足りないことだと思っています。ITはあくまでツールであり武器。その中の1つがデータです。例えばお客さんのフィードバックをデジタルで保存し、数十万、数百万というデータが集まっています。それを人工知能(AI)やデータサイエンティストのチームが解析することで、より幅広く提案ができたり、提案のクオリティーが向上します。ファッション業界はコレクションがトレンドの上流でいたが、今は個の力が強くなり、個からもトレンドが生まれている。我々はその個のトレンドを把握するデータ活用をしたいと思っています。

スタイラー株式会社 代表取締役/CEO小関 翼(以下、小関):スタイラー株式会社を経営している小関です。天沼さんと同じく、アパレルではなく金融でキャリアをスタートしました。日本とイギリスのメガバンクで働いた後にAmazonに入社しました。Amazonも素晴らしいプラットフォームですが、限界を感じ、スタイラーを起業して「FACY」というサービスを始めました。Amazon自体好きなサービスで、ほとんど買い物はAmazonで済ませてしまいがちですが、やっぱり苦手なものはあるんですよね。AmazonなどほとんどのEコマースサイトのUI(ユーザーインターフェイス)とUX(ユーザーエクスペリエンス)は検索型に偏っており、人の頭の中にすでにあるニーズを表示させることで購買に繋げています。しかし、人の消費の方法はそれだけではなく、ユーザーとモノの間にエージェントが入ることが多いです。エージェントとは、VMDという形での店頭での情報、メディア、販売員などが情報を提供してニーズを形作っている。ユーザーはEC(オフライン)と実店舗(オフライン)を使い分けており、ECでは消費財などを購入していますが、基本的に実店舗でも買い物します。しかしまだ実店舗での購買体験はまだ改善の余地があるため、我々のサービスの出番が来るわけです。例えば「スポーツ系のスニーカーだけど、オフィスでも履けるような都会的なものが欲しい」という抽象的なニーズをユーザーが投稿すると、提携している日本と台湾で500以上のショップの販売員から提案が届きます。気になったアイテムや提案があれば1対1でメッセージをやりとりして、サイズや色の確認、取り置き、配送も可能です。

関連記事:ショップ店員がオススメを提案するアプリ「FACY(旧称:スタイラー)」、ジャーナルスタンダードなどと提携開始。

司会:皆様、ご紹介ありがとうございました。では、早速一つ目のテーマ、各社の考える「ファッション業界の今後」について、小関さんからいかがですか。

小関:来場されている皆さんは、20歳前後の方が多いと思いますが、おそらく生まれてからずっと不景気なのではないでしょうか。デフレは一服したと言いつつも自分たちの所得が増えた実感もあまりないのではと思います。実際、団塊の世代が高齢化することで、可処分所得という自由に使えるお金が減ります。つまり社会保障費が増大し続けるので、手取りが下がってしまうんですね。そうした背景があるため、消費財を扱う大企業は国内だけで今の売り上げを維持することが難しく、中小企業はニッチなカテゴリーキラーでないと生き残れなくなってきています。

でも、可処分所得が低下しても人は「豊か」に暮らしたいものです。1.低価格でオリジナルの体験を求めたり、マスカスタマイゼーションで自分だけのアイテムを楽しみます。また、2.我々のサービスのように人とつながり、そこからものを買ったり、3.シェアリングやフリマで豊かな時代のアイテムを買うという消費の仕方が増えています。一方、海外市場は逆に市場が拡大しているので、いかに海外事業のポートフォリオを伸ばしていくのかが大企業だけでなく個人のキャリアにとっても非常に重要になってきています。

※コンテンツキラーとは?
NIKEや、アンダーアーマー、ヴィクトリアシークレット、鎌倉シャツなど一つのコンテンツに特化した業態を指す。

参考記事:【ファッション業界を目指す若者に向けて】業界人が見ているレポートを分かりやすく解説。数字から業界の未来を照らす。

天沼:経済的な話は小関さんの言う通りだと思います。ただ、私が注目しているのは、「人の時間の使い方」と「情報の電達の仕方」の2つです。昔は新聞とかテレビとか、マスコミュニケーションの影響力が人に対して圧倒的に大きかったですが、今はスマホが当たり前の時代になり、人が自分の好きな情報を取りに行くことができるという選択肢を得ました。マスの時代から個の時代になってきているというのが大きな潮流です。その個に対して、その人たちのライフスタイルにあったファッションを提案したいと思っています。だからこそ「airCloset」はパーソナルに力を入れています。

また、時間の使い方も変わってきています。時間は1日24時間しかないのに、それに対して得られる情報が圧倒的に多くなってきている。でも人間の処理能力は進化しないので、取捨選択をしないといけない。その取捨選択の精度が個人の人生の豊かさを決める。それを私たちはサポートしたい。その人だけでできないことを、スタイリストが助けることでより良い選択肢を見つけることができると考えると、可能性は広がりますよね。私が言いたいのは、情報がマスから個になることと、人の時間の使い方の濃さが増しているという2つの概念を持ってビジネスをするべきということです。

:私からは3つです。1つ目はテクノロジー。テクノロジーはファッション業界にどんどん入ってきており、逆にテクノロジーを使いこなせない会社は衰退していく一方だと考えています。ではテクノロジーはファッションをどう変えるのか。例えば、ECサイトでの購入や、「airCloset」や「FACY」のようにデータを活用して新しい服に出会ったり、また、我々のように自分のサイズにぴったりの服を購入することいった、お客さんの購買体験の向上。また、縫製、裁断、染色などの生産のIT化。この購買体験と生産の2つ面を変えると考えています。
2つ目はサスティナビリティー(持続可能性)です。やはり永続的に事業を繁栄させていかないといけないので、継続する方法をみんなで考えてなければいけません。残念ながらものづくりの現場では、持続可能性はないがしろにされてきた部分があります。なので、今後サスティナビリティーを取り入れる会社は顧客からも取引先から評価されていくと思います。

3つ目はトレーサビリティーです。消費者が会社やブランドを信じない時代が来ています。そこで、信じてもらえるような取り組みを会社、ブランドとして進めることが重要になると思います。例えば海外ではEVERLANE(エバーレーン) という原価を開示している会社が非常に伸びています。

司会:ありがとうございます。次のテーマは「ファッション×スタートアップに向いている人って?」です。

:どちらかというと、プロダクトアウト(提供側からの発想で商品開発・生産・販売活動を行うこと)な考え方よりマーケットイン(買い手の立場に立って、買い手が必要とするものを提供すること)のような考え方ができる人が向いていると思います。

天沼:正直、向き不向きの問題じゃないなと思っています。向き不向きよりも、やるかやらないかです。本気でやるならいいと思います。確かにスタートアップは過酷です。ヒト・モノ・情報という経営資源は大企業と比べたら勝てません。でもスタートアップは世の中が豊かになる新しいチャレンジがしたいと思っている人の集合体なので、過酷ではあるけど、その状況を楽しむことができるかどうかだと思いますね。

:最近はスタートアップと言われていますが、ベンチャー企業というと、知っている人も多いと思います。今までにない価値を創出し、大きく成長するというのがスタートアップ企業の大きな特徴です。逆に安定は2の次ですね。なので安定志向の人は向いておらず、成長志向や新しい価値創造をやりたい人は非常に向いていると思います。

司会:ありがとうございます。最後に、「業界の目指す若者に期待することや、今しておいたほうがいいこと」をお聞かせ下さい。

小関:先ほどの話の続きにはなってしまいますが、生まれてから日本経済は停滞しているという人がこの会場には多いと思います。ですが、全ての国がそんなわけではないです。僕がここで言いたいのは、割とアジアなどの近くの海外でそれが体感できるということ。海外インターン募集など、インターネットで簡単に見つけられると思います。学生で時間のあるうちに、日本が普遍的なわけじゃないということを実際に見た方がいいと思います。グローバルスタンダードは日本のスタンダードじゃないということを、自分のキャリアの中に組み込むと選択肢が1つ広がると思います。

天沼:業界の話をすると、私はITやコンサルなど、ファッション業界ではないところにいましたが、ファッションってすごく素敵じゃないですか。新しい洋服を着るとワクワクしますよね。ファッションって魅力はあるけど、業界は残念ながら右肩下がり。どうやって世の中に価値やワクワクする体験を届けられるのかということを1人1人が自分自身の意思を持つことが、ビジネスに繋がると考えています。「airCloset」は個人が圧倒的成長をして感動体験を届けることを中心に考えている会社。「本気でやりたい」という気持ちが1番大事です。世の中に天才はいます。能力値で2、3倍違いがある人もいます。でも意識の差は100倍にも1000倍にもなる。特に若いうちにその意識を高め続けることができるかが、自分自身の人生でどれだけ楽しいものにできるかにつながる。もう1つ意識して欲しいのはテクノロジー。やはりテクノロジーが武器としてあるかないかが圧倒的な差になる。プログラミングできるようになろうねとかいう話じゃなくて、テクノロジーで何ができるかを理解しておくのは非常に重要です。

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:シンプルに伝えると、世の中は10年で変わります。10年前にスティーブ・ジョブスがiPhoneを発表しましたが、今スマホを持っていない人はいない。5年後くらいには世の中がガラリと変わり、スマホを持っている人はいなくなるかもしれない。だから挑戦することって大切だと思っています。僕ら3人は経営者なので人を採用する立場にありますが、面接で魅力を感じる人は、過去に挑戦していた人です。でも過去に挑戦していただけではなく、成功も失敗も経験し、なぜ失敗したのか成功したのかをしっかり自分の頭で考えられる人と一緒に仕事したいですね。だから挑戦することを続けて欲しいと思います。

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司会:皆様、ありがとうございました。

▽登壇者

・株式会社FABRIC TOKYO (旧名:株式会社ライフスタイルデザイン) 代表取締役/CEO 森 雄一郎 様

オンライン発のカスタムオーダーブランドを展開:https://fabric-tokyo.com/

・株式会社エアークローゼット 代表取締役/CEO 天沼 聰 様

女性向けの新感覚オンラインファッションレンタルサービスを運営:https://www.air-closet.com/

・スタイラー株式会社 代表取締役/CEO 小関 翼 様

ショップ店員とファッションアイテムを購入したいユーザーをつなげるオンライン接客アプリ「FACY」を運営:https://facy.jp/

Text: READY TO FASHION MAG 編集部

READY TO FASHION MAG 編集部

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