「KEISUKEYOSHIDA(ケイスケヨシダ)」デザイナーの吉田圭佑さんのインタビューを前回に引き続き掲載します。

前編こちら↓

前編では吉田さんがブランドを始められたきっかけや、ブランドの変遷など、オーソドックスな質問を中心にお話をお伺いしてきましたが、今週は大きく変わって吉田さんの内側を覗けるような質問が中心に話を展開していきます。今までのケイスケヨシダの服の見え方が一気に変わる一言や、10月17日から開催している、Amazon Fashion Week TOKYOで発表される17ssについても今の心境と共にお伺いすることができました。

「今やろうとしていることは自分にとって凄く難しくて、苦しい。いろんな意味で”変わろう”としている。」

彼がこう語る背景には何があるのか。人気若手デザイナーが語る言葉の数々、服飾に興味のある方だけでなく、ものを作り出す仕事をしている方全員に最後まで読んで頂きたい記事です。

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一つのテーマの中にもいろんな感情が層となって入り混じっている

吉田圭佑(よしだけいすけ)・・・

1991年東京都出身。立教大学文学部卒業ここのがっこう、ESMOD JAPON「AMI」にてファッションを学ぶ。15A/WよりKEISUKEYOSHIDAとして活動を開始。「東京ニューエイジ」に参加しランウェイ形式でコレクションを発表。
16S/SよりMercedes-Bens Fashion Week TOKYOに参加。
公式HP:http://keisukeyoshida.com

──吉田さんは服をデザインする際、”長い月日をかけて考えて”服のデザインをしているのか、それとも”直感的な閃き”でデザインをしているのか教えて下さい。

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吉田圭佑(以下:吉田):どっちもあります。これまで見てもらった3シーズンの中の1シーズン目は、”1人の男の子”をテーマにしたコレクションで、そのテーマがブランドのコンセプトでもある『明るいのか暗いのかわからない青春と、そこにいる彼らの感情と装い』です。そこにいる彼らの”明るいのか暗いのかわからない感情”というのを意識したコレクションで、服をデザインする時は”こういう男の子”というイメージを持ちながらそれに自分も重ねていました。

デザインはモデルの”男の子”から考える服もあるし、ふと思い浮かんで作るものもあれば、街の人を見てこれを入れたらいいじゃん!って始めるものもあります。

最初”ふわっ”としたもの(大きい枠組みみたいなもの)を、コレクションを作っていく前にイメージして、だんだんこういうテーマがやりたい!となっていき、リサーチをしていく中でデザインを考える脳みそにしていきます。そうするとやりたいイメージが思い浮かんで来やすくなるんです。

コンセプトが狭いとその中でしか”ものづくり”ができません。

僕がこれまで扱ってきた”青春”というテーマ。人それぞれ青春にはいろんな側面があって、その全部がその人にとっての”青春”だと思います。例えばミスチルを聴く日もあれば、尾崎を聴く日もあって、aikoを聴く日もある。そのどれもがその人の中にあって、それが青春で、それが人間だと思うんです。一つのテーマの中にもいろんな感情が層となって入り混じっていると思っています。

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(KEISUKEYOSHIDA 16ss)

ものづくりをしていく上で一番大事なもの自分の“核”

──吉田さんにとって”ここのがっこう”で得た一番大きいものは何でしょうか?

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吉田:”ここのがっこう”はクリエイションの核を見つける場所であると僕は思っていて、何度も自分と向き合いながらファッションについて学んでいく中で、いろんな面から自分を見ることができたと思います。

自分の作った服を発表するときに”プレゼンテーション”をするのですが、僕はプレゼンをするのに1番大事なのは相手との”コミュニケーション”で、自分のことを一番好きになってもらうことだと考えています。

プレゼンをしている人の作っているものがもし、よくなかったとしても、その人に興味があったら話を聞く。それには何かしらで人の心を掴むことが大事で、”ここのがっこう”で学んだことの1つ目はそのことです。

自分の”核”というのは、自分にとって離すことの出来ないものだし、自分がものづくりをしていく上で一番大事なものです。しかし、それを見つけるのはとても時間のかかることで、それが見つかったらこれからもの作りをしていく上で「どうしたらその”核”を好きになってもらえるか」っていうのを実践的に試さなければいけない。それを”ここのがっこう”では山懸さん坂部さんをはじめ、業界内外問わずのさまざまな方にプレゼンしたことはかなり良い経験です。

また、”ここのがっこう”で教わることはデザインの決まったやり方ではなくて、デザインの仕方に関しては、一人ひとり全然違うアドバイスを貰っていました。講師の先生たちの意見も当たり前だけど人によって全然違ったりします。そのアドバイスが自分にとって本当に”良い”か”悪い”か取捨選択したり、アドバイスの斜め上をいってやろうとよりよい新しいことを考えることが大切な時間でした。

”良い”か”悪い”かを探して自分を見つけていく中でその作業はずっと一人ではできなくって。

例えば、自分の思っている”良い”ものや”自分”というものが周りに共感して貰えるんだとか、これは自分にとって”大切”、”特別”だけれど、反対にこれは”みんなも考えていること”なんだとか、そういうことって周りに聞いてみたり、見てみたりしないとわからないじゃないですか。”「私はこういうことが面白いと思う」という意見を持っていて、デザイナーを目指している”そういう人が全員”クラスメイト”という環境の中で”自分にとっての”特別なもの”、”大切なもの”を探っていくことができたのがもう一つのここのがっこうで得られたことです。

自分にとって一番ファンタジーなことは「嫌いな奴を思いっきり殴る」

──今後、ブランドとして目指すコレクションの方向性と、その理由を教えてください。

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吉田:特に、これは来季の話になるんだけれども、コレクションが”モード”寄りになっていくかもしれないな…と思っています。これまでメンズがメインで服を作って来ましたが、メンズをやるという中で中心にいるのは自分なんです。

やっぱり、自分自身がメンズの服を26年間着ているから、「こういう服着たらハズかしい」、「これだったらしっくりくる」とか、メンズの服に対して自分の経験に基づいた感情があって、自分の装いへの意識や恥じらい全部がデザインに繋がっていきます。

うちのブランドの面白いなと思うことは、作っている服自体は、突飛なデザインではなくどちらかといえば普通なんです。特に16SSなんかは、普通の服を作っているのに、「あんな服は日常で着れないよ」って言われたりもしてしまいました。僕はそう言われるたびに「いや、一着一着で見ると結構、良い服なんだけどな、、」って思ったり、、これは難しいところだけれど、もっといろんな人に届けるには、もっと「着たいな」って思ってもらえるようなプレゼンテーションも意識しないといけないなとは思っています。

でも、ケイスケヨシダのショーはとんでもないものを作っているというよりかは、”普通の服”を発表して、それに対して新鮮なリアクションがあった。

それって、僕はデザイナーとして一つ面白いことができたのかもなって思います。何が面白いかというと、1つはそこら辺の街中にいる子を特殊な環境で、ファッションとして見せているところと、2つ目は僕の考える”ファンタジー”の話になるんだけれど、

自分にとって一番ファンタジーなことは「嫌いな奴を思いっきり殴る」みたいなことだと思うんです。

出来ないじゃないですか…?やりたいけれど!!魔法使って空飛ぶとかよりも、本気で嫌いな奴をぶん殴ってやる方が圧倒的にファンタジーじゃないですか(笑)

そういう意味で、僕は日常の中にファンタジーを見出していて、作る服にもそれが映っているのかなと思うんです。凄くとんでもないもの作って夢を見るというよりも、等身大の中の裏にある感情が自分にとっては”ファンタジー”だから。

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(KEISUKEYOSHIDA 15aw)

いわゆる”モード”に近づいてみたい

──先程、17ssは「モード」に寄っていくとおっしゃっっていましたが…?

吉田:17ssはガラッと変えようとは思っています。これまでの3シーズンでやってきたことは、自分にとって生々しくて情景を見せるような表現でした。そこに”共感が生まれる”っていうのを大事にしていたので、そのためにあの子たちに着せる必要があって、あの子たちの着る服をデザインする必要がある。そういう意味でもはじめて発表した15awは制作そのものがチャレンジでした。

さっき話した”恥じらい”とか”緊張感”をランウェイに生む時、実はバックステージにいる僕が一番ドキドキしていて…(笑)「彼、ランウェイ歩けるかな?大丈夫かな?」という不安やドキドキする気待ちでいっぱいだったのです。

3シーズンやってきた中で2シーズン目のコレクションは、”ゲーマー風ルック”なんて呼ばれて話題になって、その次のコレクションではお客さんがそれを期待するだろうなって、、僕も若干それに応えるようなコレクションを作りたいという意識がある中でコレクションを発表しました。そして、実際に発表した時に、内容云々ではなく、「なにか違うな」というもやもやがあって、それで「何が違うんだろう」と考えた時に、

”ケイスケヨシダにとって彼らを使って表現するってことは「核」ではなく、それ自体が「本質」というわけでもないなって思ったのと、デザイナーとしてもっとチャレンジしなきゃダメだな”という事でした。

そこのラーメンが大好きでも、”毎日同じラーメン屋ばかり行くと4ヶ月くらいしたら飽きてあんま行かなくなる”じゃないですか、そういう意味でも、怖いけどデザイナーとして、苦手意識とかビビっちゃって、やってなかったようなことに挑戦してみなきゃいけないなと思いました。

その中で1つやりたいと思ったのは、今までみたいに、全部を曝け出したような生々しさがメインのコレクションを、あえて作らない”ということです。

新しいことにチャレンジしようとしても、得意技を使ってそれを誤魔化しちゃいそうなので、今回は、得意な表現方法や手法をできる限り封印して新作を作ることで、新しい方向に進むための態度を示してみようかと、、そんな不器用な戦法で17ssを作っています。

今までは”彼らの姿を見せて、情景を思い起こさせる”というコレクションの作り方をしていましたが、次は服のデザインの中に感情を落とし込んでみたり、これまでの僕らしい生々しさみたいな部分はボタンとかジュエリーくらいまでに抑えて落とし込んでみたりしたいなって思っています。

またいわゆる”モード”に近づいてみたいと思っています。

それこそ、さっきまで話していたように今まで自分が発表してきたコレクションもモードの意識の中で作っていましたが、それはモードを前振りにして作った表現でした。

”かっこいい”人が出てくるのが当たり前の環境で敢えて”普通”の人を出すとか これまでの”モード”の流れがある中での提案。でも、今、これから、デザイナーとしてやりたいと思うのは、自分が憧れたモードに、自分なりに、もがきながら近づいてみたいなということです。

今までケイスケヨシダがやっていた事って”不安定な価値観”で、誰が見ても”かっこいい”ってわけじゃないけれど少ない人でも確実に”心に響く”ようなものをつくりたいなって気持ちを大事にしてきました。

もちろん今後もそれも大事にするのは当たり前なうえで、その感情のまま、これまでよりも広い範囲に”素敵だな”って思ってもらえるようなところにも挑戦してみたいなって、、それに合わせてモデルやショー形式もガラッと変えてみたいなって思っています。

“無責任さ”がゆえに、自分の美意識に向き合うことができる

──“今はメンズが多い”とは次のコレクションはウィメンズが多いということですか??

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吉田:全ルック、レディースで考えています。僕はメンズのデザイナーなので、メンズの服もちろんありますが、ショーではメンズの服もウィメンズに着せてみせようと思っています。さっきも話したように、メンズの服の好きな所は”自分がある”という所で”自分が着るがゆえに”かっこいい”、”綺麗”、、みたいな美意識から遠ざかっている部分もあると思うんです。なので自分が着ないという“無責任さ”がゆえに、ウィメンズは純粋に自分の美意識に向き合うことができるのかも、、?と思いました。

まあ、できるかはまだ分からないんですけど(笑)

でも、ユーモアよりもシンプルに、”かっこいい”や”綺麗”が17ssでは出来たらいいなって思います。ウィメンズの器が自分の中にあるのか、、完全に不安定なので自分でも不安です。僕は小中高と男子校でしたしね。僕はケイスケヨシダの本質は”もがく”ことだって思っているんですけど、これまでは彼らがもがいている姿をランウェイを通して見せていましたが、今回は僕自身が”もがく”ことがテーマのコレクションだなと思っています。かっこいいかわかんないし、しんどそうだけど、、いろんな意味でもがきながら17ssでは変わろうとしています。

ファッションとは“瞬間性”

──吉田さんにとって、ファッションとはどんな存在でしょうか?

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吉田:僕はファッションとは”瞬間性”だと考えています。

ファッションは”半年に一度作品を発表しなければいけない”というサイクルがあって、半年に一回に発表されるコレクションには”デザイナーの、その瞬間に考えていること”がありのままに現れると思っていて、ファッションデザインはとても感情的で人間らしいなって思うんです。

ファッションは自分が変わりたいと思った瞬間に、髪を切ったり、香水を振ったり、新しい装いにしてみたりすることで、新しい自分になることができる。

次の日には、こんな人になりたい!っていう希望を外見的に叶える事が出来ます。そういうところでもファッションはとてもかっこいいなって思うんです。

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──最後にファッションが好きな学生や服飾業界を目指している学生に一言お願いします。

吉田:何事も、考えてしかいないと頭の中でグルグルしんどい!だけど、しんどいことは必要で、でもその中で、少しでも”光”みたいなものを見つけた!って思ったらそれを信じて、すぐその瞬間やってみることが大事だと思います。自分の中で「これをやったらおもろいかも!」と思うものがあったらすぐにやってみるべきだなって。

「これいいじゃん」と思ってもほっといたら4日くらい経ってしまうと飽きてしまう。”やる”か”やらないか”の選択で”可能性の幅”が大きく変わると思うんです。僕の場合、ブランド始めたのもそうだったし、コレクションのアイデアも直前で真逆に変わったりもします。何事も、信じ込んでチャレンジです。だからこそ自分が”正しい”と思ったことをやれたらいいなって思います。あの時やればよかったとかそういうのって後ですごく後悔するじゃないですか。

だから、もがくことが大事だって思うんです。良いと思ったことって、なんか大半が失敗だし、しんどいんだけど、でも、もがくことが大事だと思っています。

17ssは僕自身がもがくコレクション

1人の男の子を通して様々な青春の側面をファッションで表現してきたケイスケヨシダ。前衛的にも見られ、ファッションのアンチテーゼとも囁かれたコレクションは、彼の持つ”ファッションで人それぞれが持つ感情の全てを肯定してあげたい”と思う優しさとファッションに魅了されファッションを追い続ける彼の情熱で出来ていました。

ランウェイでは見慣れない彼のコレクションを観て、人々は違和感を覚えながらもモデルに過去の自分を重ねるからこそどこか”懐かしく”、”危うい気持ち”にさせられる。もし、彼らがケイスケヨシダの服を着て歩くモデルたちと同じくらいの年齢の時に、彼らの”明るいのか暗いのかわからない青春”を肯定してくれるケイスケヨシダの服があったら、間違いなくこのコレクションを見てそんな気待ちにはならないでしょう。

人々の日常の記憶に寄り添い、弱い部分も含めて肯定してくれる。私たちは彼の作る服を纏うことで、自分の隠したい弱い部分も含めて自分を好きになれるのと同時に自分に自信を持つことが出来、強くなれるように感じるのです。

最後に今までのコレクションとは大きく変わるという17ss。「今回のコレクションはデザイナーの僕自身がもがくコレクション」だと語った彼が見せてくれる次のファンタジーは何だったのか。気になるランウェイの様子は以下からご確認ください。

KEISUKE YOSHIDA2017 S/S

日時:OCT. 22, 2016/14:45
場所:みやしたこうえん
14:45~ KEISUKEYOSHIDA @みやしたこうえん 橋

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interview:Yoshiro Ishikawa
text:Tomomi Abe
photo:Izumi Tanaka


READY TO FASHION MAG 編集部

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