三浦彰・・・WWDジャパン編集委員。福島市生まれ。中学生時代には、同人誌「EVE」を創刊し、一世を風靡する。その後、野村證券を経て、1982年WWDジャパンに入社。1994年に同紙編集長となり、現在は編集委員を務める。

連載企画「その道のプロから聞く!ファッション業界の仕事紹介」では、実際にファッション業界の第一線で活躍されている方々にインタビューを行い、READY TO FASHIONの読者にお届けしていく。

第1弾は、4年生大学の中で最も人気のあった(*関連記事参照)、メディア編。今回は、ファッション業界を目指すのなら読むべき業界紙WWDジャパンの編集委員で、和光大学でも特任教授を勤めている三浦彰氏に代表してインタビューを行った。長年、第一線で業界の動きを追ってきた三浦氏からは、目から鱗の話や実際に大学生と向き合っているからこそ感じるリアルな話を聞くことが出来た。

なぜ証券会社に?

──現在はファッション業界の週刊紙WWDジャパンの編集委員として、お仕事をされていらっしゃいますが、元々ファッションに興味を持っていたんですか?

三浦彰(以下:三浦):はい。元々、実家が繊維の会社だったんです。だからファッションと関わるのは自然なことだったのだと思います。小さい頃は、反物が置いてあるところでかくれんぼしていたり、子ども服のモデルもやっていました。

──前職は、証券会社と経歴にありますが?

三浦:最近は、証券会社に勤めていたことを経歴から消そうかなと思っているんです。どうしてか聞かれるのが150回目くらいだから(笑)。元々ジャーナリスト志望だったのですが、ちゃんとジャーナリストになるのは面白くなかったので、ちょっと寄り道しました(笑)。

──ジャーナリスト志望だったのになぜ、証券会社に?

三浦:ジャーナリストになるために、出版社の選考は受けてはいたのですが、証券会社は内定が出るのが本当に早かったんです。内定が出ると毎週、説明会という名の飲み会が開催されていました。そういった流れもあって、結果として証券に行くことに決めました。それも3年間だけと決めていましたが。証券会社、結構面白そうだったんです。人間の欲望を目の当たりにするし、経済というのがそれこそ実体験できる商売なんですね。

”似てるよね。株とファッションって。”

──証券会社での勤務によって、何かファッションを考えるにあたってヒントを得るようなことはありましたか?

三浦:一つ、面白いなと思うことがあって、株とファッションって、全然違うように見えて実は似ているところがあるんです。

──株とファッションが似てるというのは、初めて聞きました。

三浦:株もファッションも”世間の空気や、風潮/環境によって左右される”という点で同じということです。時代の最先端の技術を取り入れて期待される企業の株は売れるし、時代遅れのビジネスをやっている企業の株は売れない。ファッションも同じで、流行があるじゃないですか。

編集者と記者(ライター)は、根本的に違う

──証券会社を辞めた後に、ジャーナリストとして活動されたと思いますが、WWDジャパンを選んだのはなぜですか?今、何年目ですか?

三浦:それは偶然ですね。82年に入社して35年目になります。

──記者からスタートされたのですか?

三浦:そうですね。うちは編集者じゃなくて記者ですから。取材に行って自分で記事を書く。編集者はライターに書いてもらうんですが編集者が自分で書くことはほとんどなく、「このテーマでやろう」など、記事の構成を決めます。テーマを見つけて誌面を構成するのが編集者なので、それに相応しいライターやカメラマンやスタイリストを見つけるんです。

最近思うんですが、雑誌は編集者がころころ変わるんですよね。編集者は同じ雑誌を5年もやる人はいない。次はこれというような感じでローテーションが決まっているんです。それに日本の雑誌はいわゆる欲望喚起装置なんですよ。

──現在のお仕事は編集委員ですよね。

三浦:今も記者です。例えば、ブランドが出来ましたという内容や、会社が倒産しましたというニュース、このブランドがめちゃくちゃ猛烈に売れていますというようなことを書いてますね。

またそういった一時的なニュースではなくて、新聞の社説や論説のような、もっと業界全体のこういうのやらなきゃいけないですよとか、こういう風に業界を持っていかないといけないというような、いわゆる提言みたいなものも書いています。このような記事はある程度経験がないと書けないですよね。なぜかといえば、説得性がないからです。新卒1年目が書いていても何を言っているのとなる。

具体例を出してみましょう。君は野球詳しいかな?シーズンを終わった後に、その一年間でもっとも優秀な9人を選出するベストナインをサードは誰、センターは誰、ピッチャーは誰というように決めるようになっています。ただ、そういうのは誰でも投票できるかというとそういうわけではないんです。あれは記者歴、確か5年〜10年という条件があるんですよ。というか、キャリアがないと投票資格がないという事です。

──いわゆるファン投票とは違うということですよね。

三浦:そうだね。昨日ファンになりました、なんて人もいるからね(笑)。野球の殿堂入りなんかはキャリアが20年以上ないと出来ない。つまり、どの業界でもその分野に対して知見の深いことを証明するキャリアがないと説得性がないということです。「このブランドが売れています。」というような記事は、君(インターンKei.H)でも書けますよ。売れてるんだぜって一方的に伝えているだけなんです。今でも仕事の一業務として書くことはありますけど。

30年超のファッション記者が感じ取る、ファッションの変化

──最近の若者は、洋服、ファッション離れしていると思いますか?

三浦:和光大学の学生を見ているとそう思いますね。

──和光大学で先生をされてどのくらいですか。生徒のファッションはどのように変わってきていると感じますか?

三浦:7〜8年です。今はやっぱり感じますね。アルバイトに明け暮れる大学生とかを見ていると所得格差を感じます。”なんでそんなにアルバイトするの”と聞くと、”何言ってるんですか、アルバイトしなかったら大学に来れないんですよ”と返ってきます。アルバイト、サークル、授業、勉学という優先順位。1にアルバイトなんてありえないですよね。それぐらい家計が逼迫しているということなのかなとも感じます。

アルバイトがとにかく優先事項で授業に出てくれば寝てしまう。掛け持ちバイトとかもしているんですかね。そういう状況でファッションとか入り込む余裕がないんでしょうね。”ユニクロなんて高くて買えません、GUで精一杯”という感じで、ファッションに対しての出費なんてこれっぽっちしかないのかなとすごく感じます。かと思えば、たまに高価な洋服に身を包む若者もいますけどね(笑)。でも総じてファッション好きな人がすごく少ない。昔は都市の大学にいたからだったのかな、もっといた気がするんですけどね。

君(インターン Kei.H)、ファッションサークルを立ち上げて見てよ(笑)。集めてみたら10人も集まらないかもしれないな…。そういった声が上がらないのもどうなのかなとも思うのだけど。ファッションサークルの部長を務めあげたら就職でどこへでも行けると思いますよ(笑)。

気になる今後のファッション業界の動向

──最近注目している企業はありますか?

三浦:企業でいうとマッシュホールディングスです。すでに600億円規模の大きな会社になっているので、今更、言うのもなんですが。

──今後どういったファッションのタイプが出てくると思いますか?

三浦:それはコミュニケーションウエアですね。

──コミュニケーションウエアというのは?

三浦:要するに作り手側が伝えたいようなコンセプトが伝わるようなファッションなんですよ。これは量にはならないですし、質とかでもないです。ちょっと難しいですが、もっと分かりにくく言えば文学です。小説家が小説を書くように、デザイナーがデザインしたファッションです。

──わかる人にはわかる、ニッチな市場を抑えていくというイメージでしょうか?

三浦:まあ、そうですね(笑)。writtenafterwardsの山縣良和君とかASEEDONCLÖUDの玉井健太郎君とかが、そのようなタイプのファッションです。この2人はもともとはコンビを組んでたんだけど。大きな売り上げなどが期待できるとは思いませんが、そういう洋服は注目しています。方向性としてはそういったものが一番新しいのではないかと。自分でも分からないですが、直感でピンとくるのはそういったものです。

いわゆるブランドの8割はコピーしているだけなんですよね。どこかで見たことのあるようなものを自分流にアレンジしていると言った方が良いのかな。真っ直ぐコピーをしたらZARAになってしまいますからね。自分流にアレンジしているというのが基本で、僕は毎日見ているので、そういうのは分かりますよ。ファッションって深く掘り下げれば掘り下げるほど難しいですよね。

──ファッション業界へ働きたい若者へ、アドバイスをお願い致します。

三浦:それこそアルバイトをすればいいと思います。特に販売のアルバイトです。ファッションは見たり触れたりしないと分からない。そういう経験値の差があるんです。学業を阻害しないぐらいの程度で、ファッション系のアルバイトをする。そして、WWDジャパンを年間購読して隅から隅まで読む。そして、僕の授業を受ければ、絶対どこの企業でも働けますよ(笑)。

濃い「経験」を積みながら若さも武器にして

長年、ファッション業界で記者として活躍されている三浦氏の経歴は、証券会社という全くの異業種からのスタートであった。しかし、その経験もあって「株とファッションの類似点」「編集者と記者の特徴」など新しいものの見方を私たちに教えてくれた。

三浦氏のように、独自の視点で物事を伝えるという技術はやはり長年記者を勤め上げてきたからであろう。

今回の取材では、インタビューに合わせて、和光大学の授業にも参加させて頂いた。「ユニクロ」を題材に授業は進められ、時折生徒を指名し、質問を投げかけていた。指名された生徒もそれまで受けてきた授業の内容を思い出しながら、一生懸命答えていた姿が印象的だった。三浦氏は生徒に質問を直接投げかけることによって、生徒に考える習慣を身につけるように授業の中で工夫しているのだろう。ファッション業界で働きたい若者にとって、非常に有意義な授業になることは間違いないだろう。そして、生徒の名前もしっかりと覚えている三浦氏の優しい人柄も授業に参加させて頂いた中で感じることが出来た。

今回の三浦氏の取材を通して、「経験」という言葉が一番心に響いた。それは目に見えないものではあるが、「経験」があるからこそ説得力がある。もし濃い「経験」を積むことが出来れば人生は歳を重ねるごとにつれ、より良いものになっていくのではないだろうか。しかし、若さも強みであることは間違いないので、ぜひREADY TO FASHIONの読者の方々には、多くの濃い「経験」をして、深みのある人生を送って欲しい。


Interviewer:Kei.H(和光大学4年生)


READY TO FASHION MAG 編集部

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