ITやファストファッションの普及により、人がファッションに触れる機会は以前よりも格段に多くなった。しかし、「キャリア」の視点に立ってみると、業界の現状を知る教育者や、学生が現場を体験する機会は不足していると言える。


この連載では、そのような課題を解決するために、ファッション業界を志す学生が本当に知るべき「生」の情報を伝えていく。文章は株式会社StylePicks CEOの 深地雅也氏が執筆する。

大量生産・大量消費を否定する気はありません

梨花が「メゾン ド リーファー」で次に挑戦するのは “人にやさしい 地球にやさしいを 心がけたものづくり”

「メゾン ド リーファー」は、“人にやさしい 地球にやさしいを 心がけたものづくり”に挑戦したいと思います。

これまでオーガニックや資源の再利用といった取り組みは積極的には行ってこなかったのですが、未来に向かって何ができるだろうか?本当にこれでいいのか?ということを、考えていました。

アパレル的にも、そういうところに向かって動き出していると思うんです。自分たちが未来をどう作っていくのか。

それを考えたときに、オーガニックを極めるとかそういうことではなく、人や地球に“やさしい”モノ作りを“心がける”ことが大切なのではないかと。

近年、バズワードになりつつある「サステイナブル」や「エシカル」

大量生産・大量消費に対するカウンターとしての運動で、ファッション業界でも環境に対する懸念が高まっています。ただ個人的には、大量生産・大量消費を否定する気はありません。

そもそもファッションって無駄で贅沢な物から始まっていますし、需要がある=消費者が求めているからこそ拡大している側面もあります。

無駄な物があるからこそ産業が成り立つという事実を無視できませんから、これが解決したところでまた別の問題が浮上するだけでは?とも思います。

オーガニックは地球に優しいのか?

環境負荷を軽減する取り組みとして代表的なのが「オーガニックコットン」ですが、ではこれが環境に与える影響は何なのか?下記の南充浩氏の記事が参考になります。

オーガニックコットンという製品自体にはそれほど、「効能」や「機能」があるわけではなく、それよりも「土壌汚染を食い止めていますよ」という生産体制に対する支持であると言える。

謎多き格安オーガニックコットン製品

上記の通り、土壌汚染を食い止めるのがオーガニックコットンの肝ですので、素材自体に特別な機能がある訳ではありません。(あっても洗濯したら終わるようです。)

しかも製品の中には10%や20%程度だけ配合した物もあったり。更に、生産するには広大な土地が必要になりますから、その分農地を切り開きます。

生産量が増えれば増えるほど農地はもっと必要になりますから、これも結局環境に負荷がかかるのです。

H&Mは、使用量は全体のわずか13.7%だが、世界で最もオーガニックコットンを使用している企業である。

以前も伝えたが、綿花とは世界で最も毒性の高い作物の1つだ。有機消費者協会(OCA)の話では、世界の殺虫剤の約4分の1が綿花に使用されており、これは全農薬の12%に相当するという。

綿花の栽培にはまた極めて大量の水が必要とされる。世界自然保護基金によると、綿花1 kg(Tシャツ1着分、あるいはジーンズ1本分に相当)の生産につき2万リットルの水が必要だという

ファスト・ファッション産業はだれの犠牲で成り立っているのか(前)

こちらの記事ではH&Mの綿花栽培について言及しています。

結局オーガニックコットンだろうが普通の綿花だろうが、栽培するのには大量の水を使用しますし、生産した分ゴミは出ます。

つまり問題は生産方法よりも生産量になります。

勝ち目の無いブランドが淘汰される事が一番無駄が無い

何度も言いますが、僕個人は大量生産を否定しません。

「大量にゴミが出るから」とか「東南アジアの人の人件費がたたかれる」とかそういった理由でファストファッションを買わないで、適正な価格(と言っていいのか)の製品を買う人がどれだけいるのでしょうか。

しかもその製品を販売している企業が本当に適正な工賃を工場側に支払っているかどうかも不明です。

結局、市場原理に逆らってもエシカルの実現可能性は低く、その動きに理が無ければ変化など起こりません。
もし無駄を無くそうとするなら勝ち目の無いブランドが市場に参入しない事が一番です。

負け組ブランドでもある一定数は商品を生産しますし、少なからずは売れてしまいます。しかし、それでも働いている人が潤う訳ではなく勝ち組からちょっとくらいはシェアを奪う訳です。

おまけにゴミも生み出すという一番ダメな結果が起こります。ですから、明らかに勝ち目の無いブランドは参入しない事と、再起できそうなブランドは再編されれば無駄が無くなります。

きれい事を言うのは勝手ですが(僕も違う問題では大いにきれい事を言っております。)、できれば意味のあるきれい事を言いつづけたいものです。


READY TO FASHION MAG 編集部

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