トヨタ自動車が取り組む「TOYOTA UPCYCLE」から誕生したファッションブランド「Tsugi-Craft(ツギ・クラフト)」の展示・発表会が、10月15日(木)〜17日(土)に表参道「seeen」にて開催されました。会場では、Tsugi-Craftの新作コレクションが披露されたほか、素材の活用プロセスやものづくりの現場における取り組みが展示されました。

イベント初日には、プロジェクトの歩みと未来のビジョンに関するプレゼンテーションを実施。後半には、ファッションジャーナリストの向千鶴氏(以下、向氏)をファシリテーターに迎え、「社会への意思はファッションの価値になり得るか」をテーマにしたクロストークセッションが行われました。本記事では、当日の様子をレポートとしてお届けします。

トヨタ自動車提供: 左から、トヨタ自動車 新事業企画部 副部長 只熊憲治氏、トヨタ自動車 新事業企画部 TOYOTA UPCYCLEプロジェクト 中村慶至氏 髙木忍氏、Tsugi-Craft デザイナー/クリエイティブディレクター 一法師拓門氏、ファッション・ジャーナリスト 向千鶴氏

自動車製造の現場から生まれる「モッタイナイ素材」に新たな価値を

「TOYOTA UPCYCLE」は、自動車の製造過程で生まれる端材や副産物などの「モッタイナイ素材」に、ものづくりの技術とパートナーとの共創によって新たな役割と価値を与え、社会へ届けていくプロジェクトです。

自動車の製造過程では、本革シートをはじめとする高機能・高品質な素材が多く生まる一方で、規格に合わない端材などは活用しきれず、廃棄せざるを得ない現実がありました。そこで、「もったいないをもっといいへ」というスローガンを掲げ、約5年半前に本プロジェクトがスタート。プロジェクトオーナーの中村慶至氏(以下、中村氏)は、「正直に言えば、捨てるほうがずっと簡単です。その現実に何度も直面しながら取り組んできました」とこれまでの苦悩を振り返りました。

続けて、「高機能な素材を使って製品を作れば、それだけで価値になるわけではない」と語り、使い手が真に価値を感じるプロダクトにするため、デザイナーや職人など社外の多様なプロフェッショナルとの対話を重ね、素材に新しい役割と価値を吹き込んできたと話しました。

トヨタ自動車提供
トヨタ自動車提供:製造過程の展示の様子

素材の個性を引き出す「ひと手間」の積み重ね


素材の魅力を引き出す鍵として、「ひと手間」の重要性を語ったのは、事業開発室 アップサイクルグループ長の髙木忍氏(以下、高木氏)。製造現場から出るさまざまな端材に対し、次のものづくり工程へと橋渡しするための「ひと手間」を加えています。

例えば、本革シートを張る工程でどうしても余ってしまうシートレザー端材は、そのままの姿で工場に持ち込んでも加工が難しく、断られてしまうのが現実でした。そこで、社内で大きさごとに細かく仕分けるというひと手間を実施。大きな端材はペンケースに、中くらいのものはIDカードホルダーにと、適材適所で活用できるように分類することで、次の製造プロセスに乗せる道を切り拓きました。

また、エアバッグに使われるナイロンの原反(二次加工を施す前の元材料)は、素材そのものの状態では無機質で魅力に乏しいという課題がありました。そこで、染色工程を通すとともに、ナイロンが熱収縮する際に現れる独特の「シワ模様」を風合いとして活かすシワ加工を施し、味わい深いテキスタイルへと再生しました。

さらに、燃料電池自動車「MIRAI」の水素タンクを作る過程で出た樹脂端材は、現場で押し固めてブロック状にし、スツール(椅子)の部材へと転用しています。加えて、排水処理場から出る汚泥は、スタートアップ企業と連携し、含まれるフッ素などの有害物質を化学反応によって無害化・安全化し、建築用タイル等へ再生する挑戦を続けています。

上段:排水処理場から出る汚泥を無害化し、タイルへと再生 下段:樹脂端材をブロック上にし、スツールの素材へと再生

高木氏は「身近な存在であるファッションの領域だからこそ、アップサイクルの新しい価値を日常に届けて行きたい」と意気込みを語りました。

ミリ単位のこだわりが現場を変える。トヨタの姿勢が生み出すアップサイクルの真価

今回発表されたTsugi-Craftの新作では、本革シートの端材を活用したバッグ4型と、革小物4型が登場。従来のブラックに加え、新色として温かみのある「サドルタン」と「サンドブラウン」の2色が追加されました。

トヨタ自動車提供:

Tsugi-Craftのクリエイティブディレクターを務める一法師拓門氏(以下、一法師氏)は、ローンチからの進化について次のように話しました。


「1年目は誰でも・どこでも使える『ニュートラル』(性別・年齢・用途を問わない)なデザインを目指しました。2年目となる今回は、より日々の暮らしに溶け込ませるため、ビジネス向けのブリーフケースや、休日に持ち歩きたい小型バッグなど、あえて『使用シーンを意識した設計』へとシフトさせました。欲しいと思えるデザインを突き詰め、自然体で使っていただけるものづくりを意識しています」

トヨタのものづくり姿勢が生み出すアップサイクルの真価


後半行われたトークセッションでは、「社会への意思はファッションの価値になり得るか」をテーマに議論が交わされました。

元より価値を高めてこそ「アップサイクル」と呼べるという前提に対し、デザイナーの一法師氏は、次のように語りました。

「デザインの良さはもちろんですが、何よりもトヨタの「ものづくりへの真摯な姿勢と責任感」に最大の価値を感じています。例えば、パッチワーク縫製において『何ミリ以下のズレは許容、何ミリ以上はアウト』と、ミリ単位の明確な品質基準が示されました。最初は戸惑っていた縫製工場の職人さんたちも、その厳格な改善プロセスを通じて技術力を高めていきました」

また、デザイン面では「あえてトヨタらしくないもの」を強く意識したといいます。

「『車っぽいもの』『トヨタらしいもの』を狙うのではなく、自身のクリエーションとトヨタの強みを掛け合わせることで、新しい価値を生み出すことを重視しました」

その成果は着実に実を結んでおり、従来の自動車ファン層だけでなく、ポップアップストアなどを通じて20代の若年層やインバウンドの旅行客など、背景を知らない幅広い層にも「純粋に魅力的なプロダクト」として手に取られる機会が増えているといいます。

裁断生地を仕分けて加工・製造するまでの「ひと手間」を展示

サプライチェーンの末端まで循環を諦めない。「クルマの会社」を超えたファッションへ


ファシリテーターの向氏は、「アパレル業界のサプライチェーンも複雑と言われていますが、アパレルメーカーが染料工場の汚れた排水まで責任感を持ってアップサイクルする、という話は私が知る限りでは聞いたことがありません。製造工程で出る副産物まで目を向け、循環させようとする姿勢に心を打たれた」とトヨタの取り組みを高く評価しました。

これに対し、トヨタ自動車の高木氏は「大企業としての社会的責任や使命感はもちろんありますが、本来は魅力があるのにスポットライトが当たっていない素材を輝かせること自体が面白く、原動力となっている」と笑顔を見せました。

トークセッションの結びとして、登壇者それぞれが今後の展望を語りました。

一法師氏は「『クルマの会社が作ったファッション』ではなく、『トヨタのファッション』として評価されるブランドを作り、この取り組みを通じてパラダイムシフトを起こしたい」と力強く語りました。

続いて高木氏は、「背景のストーリーはもちろん大切ですが、純粋に『モノとして素敵だ、欲しい』と思ってもらえる製品をこれからも届けていきたい」と、ものづくりの原点であるプロダクト自体の魅力を追求し続ける姿勢を示しました。

また中村氏は 「自社や一部の協業先だけで完結させず、知見を開いて仲間を増やし、社会全体でアップサイクルの輪を広げたい。今後はレザー以外の多様な素材展開にも挑みます」と、共創の輪を広げていく熱意を語りました。

最後に向氏が、「尾州のションヘル織機で織るツイードの縦糸にシート材を組み込むなど、日本の優れた職人技術とも繋がっている点も魅力です。この素晴らしい循環の輪を一緒に広げていきたいですね」と総括しトークセッションを終えました。

Tsugi-Craftは、代官山蔦屋書店や大阪高島屋、JR名古屋タカシマヤなどで新作コレクションのポップアップを開催。今後も、トヨタのものづくりのDNAを背景に、アップサイクルの新たな可能性を発信していくとしています。

三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。

この記事をシェア