SNSや自社ECを通じてブランドの世界観を発信し、顧客との関係性を築いてきたD2Cブランド。近年はポップアップのみならず、旗艦店を出店するなどリアル店舗を通じて顧客との接点を持つケースも見られます。そんなD2Cブランドの店頭に立つ販売員は、SNSやデジタルで広がるブランドと顧客をどうつないでいるのでしょうか。

2023年にCEO aya氏とディレクター Kei氏によって設立されたブランド、「THE TOÉ(ザ・トゥー)」。クリエイティブと商品力を背景に支持を拡大し、2024-25年秋冬シーズンの売上高は前年比250%を記録。2025年9月には、ブランド初となる旗艦店を東京・南青山にオープンし、オンラインを中心とした展開から、ブランドの世界観を体感できる実店舗へと販路を広げています。

今回は、「THE TOÉ」の旗艦店で店長を務める小林さんに、ブランドの世界観を店舗でどう体現しているのか、接客で大切にしている考え方について詳しく伺いました。

小林未来(こばやし・みく)

小林未来(こばやし・みく)

THE TOÉ 旗艦店 ストアマネージャー 大学卒業後、国内大手レディースアパレル企業に入社し、約6年にわたり勤務。ディレクターズブランドやレディースブランドで副店長・店長を経験した後、2026年6月に株式会社mavieへ入社。現在はストアマネージャーとして、接客から在庫管理まで店舗運営全般を担う。

「レディースブランドでトップを取りたい」という代表の言葉が入社の決め手に

──これまでのキャリアについて教えてください。

2020年から約6年間、国内の大手アパレル企業で販売員として働いていました。2つのブランドを経験し、副店長や店長として店舗運営やスタッフの教育にも携わってきました。

もともと一つのことに集中して取り組む性格で、大学卒業後、長く続けられる仕事は何だろうと考えていた時、真っ先に思い浮かんだのが接客でした。飲食店で接客のアルバイトをしていた際、リーダーとしてスタッフ教育を任されることが多く、自分の得意分野だと感じていたのだと思います。

また、ファッションが好きだったことに加え、父がアパレルのOEMの会社で働いていたこともあり、身近だったアパレル業界で働くことを選びました。

──前職では約6年間働かれていますが、転職を考えたきっかけは何だったのでしょうか?

やり切ったという実感があったことが大きいですね。今後のキャリアを考えた時に、接客や人材育成のスキルをさらに磨きたいと思っていたタイミングでもありました。

転職活動中はさまざまなレディースブランドの店舗を見学しました。その中でTHE TOÉを訪れて実際に商品に触れた時、デザイン性や素材の良さが他のブランドとは一線を画していると感じたんです。

さらに、ブランドについて調べる中で、創設者のayaさんとKeiさんの思いに触れたことも、入社を決める大きな理由になりました。実際にayaさんと会話を重ねる中で、ブランドとして接客の質をさらに高めていくフェーズにあると伺い、「自分の経験を活かして力になれる」と感じました。

──他のスタッフの方も、お二人の思いや熱量に惹かれて入社されたと伺いました。小林さん自身は、どんな思いが特に印象に残っていますか?

一番印象に残っているのは、「レディースブランドでトップを取りたい」という言葉です。単に規模や数字でトップを目指すのではなく、自分たちが信じるものづくりの価値を世界に届けたいという意志を強く感じました。ゼロからブランドを立ち上げ、数々の挑戦や困難を乗り越えてきたお二人だからこそ、この言葉には理想論ではない重みがあると思いました。

ブランドが成長した今も、現状に満足せず、常にその先を見据えている。そんな姿勢に触れるたびに、私自身もTHE TOÉの一着を選んでくださるお客様の期待に応え続けたいと感じています。

SNSではなく、店頭での接客でお客様との関係を築く

──ブランドの成長に自分の力を活かせると感じたのは、なぜですか?

前職で顧客売上全国1位を獲得した経験があり、実績を作ることには自信があったからです。前職の大手アパレル企業には有名なブランドも多く、新規のお客様の来店が売り上げにつながりやすい環境でもありました。一方、私が所属していたブランドでは、既存のお客様との関係性を深め、継続的なご購入につなげることが売り上げを築く上で重要でした。

お客様と普段からLINEでやり取りを重ね、私を目当てに来店してくださる方もいました。特に印象に残っているのは、ヘルプ先の店舗で接客したお客様です。「普段は新宿店にいるので、ぜひ会いに来てください」とお伝えしたところ、後日、本当に来店してくださいました。その後も関係が続き、転職した今でもTHE TOÉに足を運んでくださっています。

──顧客売上全国1位という実績を支えた、接客力の秘訣は?

お客様との関係を築くことで、その方に合った提案ができるようになります。関係構築とは、お客様のことを覚えるだけではありません。接客の中で、私自身のことも知っていただくことが大切だと考えています。得意なスタイルや休日の過ごし方など、パーソナルな部分まで知っていただくことで、お客様と販売員という関係を超えて、距離がぐっと縮まると思うんです。そうして築いた関係があるからこそ、その方に本当に合った提案ができる。それが私の接客の軸になっています。

──D2Cブランドには、SNSを通じた顧客とのつながりを強みにしているところも多いですが、接客を通して自分自身を知ってもらうという考え方が興味深いです。

実は、個人のSNSは運用していません。SNSで発信したり、表に出たりするのが苦手なタイプなので、面接の際にも「SNSはやりません」と公言したくらいです(笑)。そもそもTHE TOÉでは、PRチーム以外のスタッフにSNS運用は求められていないんです。

THE TOÉの看板を背負う以上、発信にもそれ相応のクオリティが求められます。それなら、自分のスキルを最も活かせる接客で勝負したい。使える時間を全て接客に注ぎたいと思ったんです。THE TOÉの世界観へのこだわりにも通じますが、それぞれが得意なことを、それぞれの領域で発揮することを大切にしています。

──接客に時間を注ぎたいとのことですが、普段はどのようなことをしているのですか?

接客は感覚だけでなく、座学も大切です。商品のメリット・デメリットや機能面まで把握しておきたいので、ロジックツリーを使って、関連するキーワードをA4用紙いっぱいになるまで書き出しています。そうすることで、商品の特徴を構造的に理解できるんです。

前職では接客ロールプレイング大会にもよく出場しており、その経験を通じて、一つの品番にも深く掘り下げられるポイントがこんなに多くあるのかと気づきました。生地やカラーの特徴、さらには色がもたらす感情への効果まで、細かく調べてノートに書き込んでいました。こうした接客の事前準備は、今も大切にしていることの一つです。

──そうした準備が活きた、THE TOÉでの印象に残っている接客エピソードはありますか?

入社初日に接客させていただいたお客様のことが、今でも印象に残っています。モルディブへのご旅行を控えていらっしゃるお客様で、お話を伺う中で、ご夫婦で旅をする時間を大切にされていると知りました。

そこで、単に旅先で着るお洋服をご提案するのではなく、どんな場所で、どんな時間を過ごされるのか、その方のライフスタイルや好みまで丁寧に伺いながら、一緒にコーディネートを考えさせていただきました。その後も継続して足を運んでくださるようになり、今では「クローゼットのほとんどがTHE TOÉのお洋服です」とお話ししてくださっています。入社初日の出会いが、こうして長く続くご縁になっていることを、うれしく感じています。

この経験を通して、接客とは単にお洋服をご紹介することではなく、お客様の人生や日常に寄り添い、その方にとっての特別な一着を一緒に見つけていくことなのだと実感しました。

私がいつも意識しているのは、「情景が見える接客」です。例えば、モルディブと聞いても、私は実際に行ったことがないので、どんな気温なのか、どんなロケーションがあるのかをお客様に伺い、具体的な情景を思い浮かべるようにしています。その上で、「それなら、このワンピースが映えると思いますよ」と、お客様が現地でその洋服を着ている姿までイメージしながら提案することを心がけています。

──そういった提案をするために、販売員にはどんなスキルが求められると思いますか?

ECサイトに書いてある情報を暗記して伝えるだけなら簡単ですが、活躍する販売員になるには、商品の情報を頭の中で細分化し、言語化する力が求められると思います。また、同じ商品でも人によって見え方が異なることを理解し、一つの商品を多角的に捉えられることも大切です。

例えば、今季はバンビ柄のアウターが出ているのですが、あるスタッフから「これ欲しいけれど、普段の自分のスタイルにしては可愛すぎないですか?」と相談されたことがありました。私自身は、バンビ柄には少し個性的で尖った印象があると思っていたので、同じ商品でも人によって感じ方が違うのだと、改めて気づかされました。

「この人には、この商品が可愛らしく見えているのかもしれない」というように、相手がどう捉えているのかを自分なりに解釈し、接客に落とし込むことが重要です。お客様の考え方にどれだけ柔軟に合わせられるかは、常に意識していますね。

接客のスペシャリストとして、ブランドの未来をつくる

──SNSやECを中心に支持を広げてきたD2Cブランドが、あえてリアル店舗を持つことにはどんな意義があると思いますか?

デザインに込められたディレクターやデザイナーの思いを直接お伝えできるのはもちろんですが、オンラインで抱いていただいた期待を、店頭で実感に変えられることだと思います。SNSやECサイトでデザインや世界観は伝わっても、素材の良さやシルエットの美しさは、手に取って着ていただかないと伝わりきりません。

実際に、オンラインで商品を見てくださっている方でも、生地に触れた瞬間に素材の良さに驚かれることが多いです。試着していただくと、誰が着てもシルエットが美しく見えるので、「やっぱりTHE TOÉの洋服って違うね」と言っていただけることもあります。

──実際に商品に触れることで、新たな魅力に気づけるのは店舗ならではですね。

あとは、ブランドの世界観を体験していただけることです。THE TOÉでは、ブランドの世界観を作り込むことを、どのアパレルブランドにも負けないくらい大切にしています。家具やオーディオも海外から取り寄せたこだわりのもので、什器一つにも妥協がありません。さらに、シーズンごとに床やカーテンまで、店舗の雰囲気をガラッと変えています。

今シーズンは、店舗1周年を記念して、オープン当初と同じブラウン基調で、カーペットやソファをまとめています。これまでも、店頭で生花を販売してフラワーショップのような空間にしたり、床をフローリングに変えたりしてきました。季節ごとにお越しいただくお客様に、店舗の雰囲気の変化も楽しんでいただきたいと思っています。模様替えの前後に続けて来店されたお客様が、その変化に驚かれたこともありますね。

──店舗での接客や日々の業務を通じて、ブランドにどんな価値を還元できると感じていますか?

販売員には、大きく2つの役割があると思っています。一つは、お客様へのヒアリングを通して、ご自身では気づいていなかった新たな魅力や選択肢をお伝えすること。もう一つは、店頭で聞いた商品やサービスに関するお客様の声を、スピード感を持って企画チームや社内に届けることです。実際に、ノベルティの制作にお客様の声を反映するなど、店舗と本部がシームレスに連携しています。

また、SNSを通じてPRスタッフに憧れを抱くお客様も多い一方、実際に会える機会は限られています。だからこそ、お客様と最も近い距離で接する販売員には、気軽に来店していただけるアットホームな雰囲気をつくる役割もあると考えています。

──D2Cブランドの販売員だからこそ、こだわっている点はありますか?

最も大切にしているのは、「選んでいただけることを、決して当たり前だと思わない」姿勢です。THE TOÉには、事前にSNSなどでブランドや商品について知り、明確な目的を持ってご来店くださるお客様も多くいらっしゃいます。それはブランドとして非常に恵まれたことであり、同時に、その期待に応える責任があると感じています。

だからこそ、ブランドへの支持や商品の魅力だけに頼るのではなく、私たち自身の接客によって、ご来店いただいた時間をより価値のあるものにしたいと考えています。私たちにとっては日々重ねている接客の一場面であっても、お客様にとっては、その一度のご来店がTHE TOÉというブランドを体験する、かけがえのない機会かもしれません。

日常の延長にある接客を、お客様にとっての特別な体験にすること。その意識を忘れず、どれだけブランドが成長しても、一人ひとりのお客様に対する敬意と誠実さを大切にしていきたいと思っています。

──前職では、接客力が売り上げを左右する販売スタイルだとお聞きしました。その経験があったからこその意識なのでしょうか。

そうですね。前職での経験を通じて、お客様お一人との出会いがどれほど貴重なものなのかを実感できたことは、今の接客観に大きく影響していると思います。ブランドの認知度や商品力だけに頼るのではなく、自分自身の接客によってお客様の心を動かし、信頼を築いていく。その積み重ねが、再び足を運んでいただける理由になると学びました。

THE TOÉには、販売未経験からキャリアをスタートしたスタッフも多くいます。ブランドへの関心が高まり、多くのお客様に足を運んでいただける今だからこそ、その環境を当たり前だと思わない姿勢が大切だと感じています。

ブランドの魅力がお客様をお店へ導くきっかけになったとしても、その先の信頼関係を築くのは、私たち一人ひとりの接客だと思うからです。目先の売上だけではなく、お客様が何年先もTHE TOÉを選び続けたいと思ってくださること。そのために、一度一度の出会いを大切にし、長期的な信頼関係を育んでいきたいと考えています。

──今後、販売員として挑戦していきたいことはありますか?

やはり「レディースアパレルでトップを取りたい」という目標の実現に、自分自身も貢献していきたいと考えています。そのためにも、接客の質をさらに高めることはもちろん、自分が培ってきた経験や知識を、チーム全体の成長につなげられる存在になりたいです。

個人的には、将来的に接客教育や人材育成にも深く携わり、一人ひとりの強みを引き出せるような教育の仕組みづくりにも挑戦したいと考えています。優れた接客を個人の能力だけに依存させるのではなく、ブランド全体の文化として根付かせていくことが、長く愛されるブランドをつくるうえで大切だと思うからです。

そのために今は、日々の接客だけでなく、店舗運営やチームづくりにも視野を広げ、目の前の経験一つひとつを学びに変えていくことを意識しています。THE TOÉの成長とともに、自分自身も成長し、その経験を次の世代へとつないでいける存在でありたいです。

──最後に、アパレル業界やTHE TOÉで働きたいと考えている方にメッセージをお願いします。

アパレルの仕事は、単に洋服を販売するだけではありません。お客様の新たな魅力を引き出したり、人生の節目となるような瞬間に着ていただく一着を提案したりと、大切な場面に携われる魅力的な仕事です。

私自身、洋服や接客が好きという気持ちを起点に業界に入りましたが、お客様と向き合う中で、接客だからこそ生まれる喜びや、人とのつながりの大切さを実感してきました。好きなことを仕事にするからこそ、難しさや壁にぶつかることもあります。それでも、自分の努力や工夫が誰かの喜びにつながる瞬間に立ち会えることは、大きなやりがいです。

接客を主軸に、スペシャリストとしてTHE TOÉの店舗を支えてくださる方を、ぜひお待ちしております。

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三谷温紀(READY TO FASHION MAG 編集部)

2000年、埼玉県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、インターンとして活動していた「READY TO FASHION」に新卒で入社。記事執筆やインタビュー取材などを行っている。ジェンダーやメンタルヘルスなどの社会問題にも興味関心があり、他媒体でも執筆活動中。韓国カルチャーをこよなく愛している。

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